歴代の学科主任報告

消費情報環境法学科の近況

宮地 基

はじめに

私たち消費情報環境法学科は、先端分野の実践的な法律を、コンピューター技術を活用して学ぶことを目的とした学科です。伝統的な法律学は、憲法、民法、刑法といった基本的な法律の学習を中心として組み立てられていました。これら基本的な法律の重要性が低下したわけではありませんが、現実の社会が、そのような基本的な法律だけで動いているわけではないことも事実です。むしろ、私たちが実際の社会で直面する法律は、新しく作られた特別な法律であることの方が多いのです。ところが伝統的な法律学の学習体系では、基本的な法律の学習だけで4年間のほとんどのカリキュラムが終わってしまい、実際の社会で頻繁に用いられている最新の法律の勉強にたどり着かないことが多かったのです。

そこで本学科は、卒業生が社会で実際に直面する先端分野の実践的な法律の学習を中心に、カリキュラムを組み立てています。その一つが消費者法の分野です。卒業生はまず第一に消費者として社会生活に臨みます。現実社会の取引において、不利な立場に立つことの多い消費者を、不当な取引から保護するための法制度、それが消費者法です。また、多くの卒業生は、企業に就職してその経済活動の一端を担います。企業の活動は、日本の経済を支える重要な役割を果たしていますが、その活動が活発かつ公正に行われるためには、適切なルールが必要です。そのためのルールを定めているのが企業活動法の分野です。最後に、どんな立場で社会に出るにしても、今すべての社会人に求められているのが環境保護の視点です。近年問題となっている地球規模の環境問題に対処するための、国際条約、国際協定を含めた、環境保護のための法制度を学ぶのが、環境法の分野です。

これら先端分野の法律は、その内容が急速に変化、発展していくことを特徴としています。昨年作られた法令集、教科書は、今年の状況を学ぶためにはすでに古くなってしまっているかもしれないのです。そこで、本学科では、最先端の法律状況を学ぶために、コンピューター・ネットワークの技術を活用しています。インターネットの技術を使えば、昨日作られたばかりの新しい法律、議会で審議中の法律案、国際会議で協議中の最新テーマを、居ながらにして学ぶことができます。先端分野の実践的な法律を、コンピュータ技術を活用して学ぶ、これが消費情報環境法学科のコンセプトなのです。

1.消費情報環境法学科はじめての卒業生
消費情報環境法学科は、発足以来丸4年をすぎ、2004年3月にはじめての卒業生を送り出しました。2000年入学の第一期生は、OB・OGの不在という悪条件にもかかわらず、他学科に引けを取らない就職実績を挙げています。現実の社会ですぐに役立つ法律知識を身につけている点は、企業の採用担当者からも高く評価されているようです。
キャリアセンターの資料によると、第一期卒業生の進路は以下の通りです。(2004年5月1日現在。全学科のデータは、キャリアセンターのホームページ http://www.meijigakuin.ac.jp/office/career/ に掲載されていますからご参照ください。)

公務員   2.4%
教育    2.4%
非営利団体 0.0%
医療・福祉 0.0%
マスコミ 3.7%
法務   1.2%
コンサルタント 0.0%
通信・ソフトウェア 13.4%
飲食    1.2%
アミューズメント 0.0%
事業サービス 9.8%
運輸・旅行 2.4%
専門店      11.0%
デパート・スーパー   1.2%
商社・卸売   11.0%
金融・保険   13.4%
不動産        3.7%
建設        1.2%
メーカー    19.6%
その他        2.4%
合計 100.0%
(他に大学院進学者1名)

実数が少ないので正確な比較はできませんが、この数字を他の学科と比較すると、まず通信・ソフトウェア系の企業に就職した学生の比率が特に高いのが目に付きます。文科系でありながら、学科の授業を通じてコンピューター技術を身につけている強みが発揮されていると言えるでしょう。そのほか、メーカー、専門店の中でも、化学、薬品、電子機器といった理科系の企業が多く含まれています。今後も、IT関連の業種、そのほか理科系の企業の文系職は、本学科卒業生にとって特色のある進路となることが考えられます。

2.新カリキュラムがスタート
昨年度の本欄でご紹介したように、消費情報環境法学科では、カリキュラムの大幅な見直しを行い、今年度の新入生から、新しいカリキュラムによる教育が始まっています。新しいカリキュラムの大きな特徴は、消費者法、企業活動法、そして環境法という、学科の主要な三つの法分野の選択必修科目を充実させ、全員が必ず履修しなければならなかった基礎科目をスリム化したことです。この結果、学科の必修科目は、民法の契約に関するいくつかの基礎的科目と、コンピューター技術の学習への応用を学ぶ法情報処理演習1、そして消費者保護の実務を学ぶ消費者法演習だけになりました。

学生にとっては、それだけ科目選択の自由が大きくなったことになります。本学科では数多くの専門科目を提供していますが、学生にとってどの科目が重要か、卒業後に役立つかは、その学生がどんな進路を目指しているかによって違ってきます。それぞれの学生が、自分の将来の目標に応じて、必要な科目を自由に選べる体制が整ったことになります。

しかし、卒業後の明確な目標を持っている学生にとっても、いったいどの科目が将来役に立つのか、よくわからないかもしれません。将来の目標を決めかねている学生は、なおのこと科目の選択に不安を持つでしょう。そこで本学科では、今年度から履修モデル制度を導入することになりました。毎年配布される履修要綱に、公務員志望、企業活動志望など、将来の目標に応じて、学年ごとに履修することが望ましい科目の一覧表を掲げているのです。このモデル表を見れば、将来自分が目標としている進路を目指すためには、今年どの科目を履修すべきかが一目でわかるようになっています。年度始めの履修登録と同時に、各学生がどのモデルに沿って履修計画を立てているかを申告させることになりました。進路に迷っている学生は、可能性のある複数のモデルを見て、共通して必要となる科目を優先して履修すればよいのです。

もちろん、入学した時点で将来の目標がはっきり決まっている学生は決して多くないでしょう。また、勉強していく過程で、はじめに考えていた将来の目標が変わってくるのもまた当然のことです。あるいは従来の進路の枠にとらわれない、独創的な進路を考えている学生もいるでしょう。したがって、申告した履修モデルは、途中で自由に変更、修正できるようになっています。科目の選択の自由が広がったことは、履修科目を選ぶ学生自身の責任が重くなったことも意味しています。将来の目標を見据えて、自分に本当に必要な科目は何なのかをよく考えてほしいと思います。

3.白金インテンシブコース(夜間主)の募集停止
本学科は、設立以来夜間主コースを設置してきました。これは、実務に密着した先端分野の法教育を目指す学科として、環境保護、企業活動そして消費者保護などの分野で実際に働いている社会人が、仕事を続けながらさらに高度な教育を受けられるようにすることを目的としたものでした。しかし近年の経済状況の下では、社会人が仕事を続けながら大学に通うことは想像以上に困難であったようで、夜間主コースへの社会人の応募は減少を続けました。学科としても、社会人入試を拡大するなどの努力を続けてきましたが、ついにほとんどの応募者が、昼間主を第一希望とし第二希望として夜間主に応募する、高校を卒業したばかりの人たちで占められるようになってしまいました。

私立大学にとって、本来目的とする応募者がほとんどいないコースを、これ以上多くの費用をかけて維持することは許されません。本学科は、この際夜間主コースの募集を停止し、これまで夜間主コースに費やされてきた物的、人的な資源を、昼間主コースの充実に当てる決断をしました。これに伴い、6,7限に白金で開講されてきた科目を徐々に削減する一方で、昼間主コースの定員を増やし、1限から5限および横浜校舎での開講科目を充実させることができます。もちろん、現に在籍する夜間主コースの学生には、最後の一人が卒業するまで、従来のカリキュラム通りの授業を提供し続けます。すべての学生が卒業した時点で、夜間主コースは正式に廃止されることになります。ただ、社会人への高度教育の提供は、本学科にとっての重要な課題であることに変わりはありません。今後の経済事情、本学の置かれている状況を見据えながら、将来別の形で社会人に教育の機会を提供する方法を考え続けたいと思います。

おわりに

大学の世界では、新しく設立された学部・学科が4年を経て初めての卒業生を送り出した時点で、その学部・学科の「完成」と呼ぶ習慣があります。しかし、私たちは本学科が「完成」したとは少しも考えていません。消費情報環境法学科は、先端分野の法学教育を行うために、常に構成、カリキュラムを見直し続けています。日々発展している先端分野の教育のためには、今年理想的なカリキュラムを作ったとしても、次の年にはすでに古くなっている可能性があります。その意味で、本学科は常に発展途上の学科だといえましょう。今後とも、消費情報環境法学科の発展にご協力とご指導をいただけますようお願いいたします。