歴代の学科主任報告
消費情報環境法学科の現状と改革の動向
山本 研
1.消費情報環境法学科の特徴
全国の大学には「法学部」を設けている大学が多数あり、また、本学法学部においても「法律学科」を設置していますが、これら他の大学の法学部や、本学の法学部法律学科 と、「消費情報環境法学科」はどう違うのでしょうか。
「消費情報環境法学科」も法学部の一学科ですから、法律学を学ぶという面では法律学科と共通する面があります。では、どこに相違点があるかというと、キャッチフレーズ的に言えば、「先端分野の実践的な法律を、コンピュータ技術を活用して学ぶ」という点に、本学科の最大の特徴があります。コンピュータの使い方・ネットワークの利用法については、単なる技術としてならばどこでも(あるいは、独習でも)学ぶことができます。しかし、それを単なる技術にとどめるのではなく、「道具」として活用するスキル(技能)を身につけるためのトレーニングを行い、その対象として、卒業生が社会で直面する先端分野の実践的な法律-具体的には、①取引で不利な立場にある消費者を守る消費者法、②企業活動のルールを定める企業活動法、③地球規模の環境問題に対処する環境法の3分野-をカリキュラムの中心に据えていることこそ、本学科を他大学の法学部や本学法律学科と差別化する特徴であると言うことができます。また、本学において、法律学科と並んで消費情報環境法学科が設置されている意義もこの点に求めることができるでしょう。
本年4月に学科主任を拝命して以来、本学科のカリキュラム等につきお話しをさせていただく機会がしばしばあります。しかし、残念ながら本学科のこうした特徴については必ずしも十分に伝わっていないという印象を持っております。今後は、対外的にも本学科の特徴について一層の情報発信に努め、浸透を図っていく必要があろうと考えているところです。また、これにあたっては、白金法学会の会員の皆様にも、ご理解とご協力をいただきたくお願い申し上げます。
2.教学改革へ向けての動き
本学科は消費者法、企業活動法、環境法という最先端の実践的な法分野を学習の中心としており、また、問題解決の道具として用いるコンピュータ技術についても、日々進化しています。そのため、2000年の学科設立当時においては先端的であったカリキュラムについても、日々見直しをはかる必要があります。また、全学的にも、各学科の教育理念を明示するとともに、その教育理念の実現に向けた教学改革に着手し、その内容をマニュフェストとして広く社会に向けて発信していこうという動きがあります。
こうした流れの中、本学科においても、消費者法部門、企業活動法部門、環境法部門、情報処理・法情報処理部門の各担当者により構成される教学改革プログラム検討委員会を立ち上げ、学科の教育理念の明確化、および、中長期的な教学改革・カリキュラム改革に向けての検討に取り組んでおります。その成果として、まずは本年7月までに下記の「学科の理念と教育目標」がまとまりましたので、ご紹介します。
<消費情報環境法学科の理念と教育目標>
先端分野の実践的な法律を、コンピュータ技術を活用して学ぶ、これが消費情報環境法学科のコンセプトです。法律を学ぶことを通じてその根底にある正義・公平という理念を感じ取るとともに論理的思考力を身につけ、それを社会で現実に起きる最先端の法的問題の解決に活かしていく、また、そのためにコンピュータによる情報処理・情報発信技術を「道具」として駆使することができる人材の育成こそが、本学科の教育目標・理念といえます。
法の根底にある正義・公平の理念を実現するためには、周囲の人間・環境への配慮、弱者への視線が不可欠です。本学は、創設者ヘボンの生涯を貫く「Do for Others - 他者への貢献」を建学の理念としており、本学で法律を学ぶ目的は、身につけた法律知識と情報技術を駆使して、社会で法的紛争に直面している人々を助け、私たちの生存に不可欠な自然環境を守り、社会的弱者の境遇を改善するために奉仕することにあります。消費情報環境法学科では、卒業生が社会で実際に直面する先端分野の法律問題として、①消費者法、②企業活動法、③環境法の3分野を中心にカリキュラムを組み立てています。これらの分野における問題解決にあたっては、法の根底にある正義と公平の理念を具体化することが重要な鍵となります。
①消費者法は、事業者と比較して情報・交渉力において劣位に立つ消費者の権利を実現するためのものです。ここでは弱者である消費者を単純に保護するというだけではなく、その真の自立をはかるという視点が重要になります。②企業活動法の分野では、企業の経済活動を活性化するとともに、国際取引を円滑に行うために、公正な企業活動のルール―公正な競争を確保するための公平の視点―が必要となります。③環境法の分野では、私たちを取り巻く自然環境への配慮-環境保護の視点-が必要とされるのです。消費情報環境法学科では、これら先端分野の法律問題を、法の理念を踏まえて適切な解決策を導き出す実践の場としてとりあげ、現代社会で起きる様々な問題に適切に対処できる応用力を備えた人材を育成することを目標としています。
これら先端分野の法律問題は、その内容が急速に変化、発展していくことを特徴としています。従来の印刷物による教材では、先端分野の急速な変化に対応することができません。そこで消費情報環境法学科では、先端分野の法律問題を効率的に学習するために、コンピュータネットワークの技術を活用します。しかし、ネット上に氾濫する情報の中には、誤った情報や偏った情報も混在しており、これら情報の洪水の中から正しい有益なものを見分ける目も養わなければなりません。本学科では、コンピュータを用いた情報の収集・処理・発信の技術を「道具」として使いこなし、情報の洪水に押し流されることなく、自ら主体的に情報を取捨選択できる能力を養うことをも目標としています。
また、中長期的な教学改革・カリキュラム改革については、消費情報環境法学科の特長を活かした骨太な改革の実現を図るため慎重に検討を進めている段階ですが、現在検討中の課題を中間的にいくつかお示ししますと、以下の通りです。
(1)学修制度一般
①入学前教育の充実
②緩やかなコース制の採用
③国家資格取得についてのサポート強化
(2)消費者法部門
①消費情報環境法学科に特化した小人数授業の増設・フィールドワークやインターンシップの導入:企業や官庁の消費者部門との連携
②学際的なオムニバス形式の授業の導入
(3)企業活動法部門
①企業活動法科目群との連続性を意識した法律基礎科目群の再構成
(4)環境法部門
①自然科学系環境科目と環境法導入科目の融合と調和
②インターン制度、フィールド調査の導入
(5)情報処理・法情報処理部門
①入学前教育の一環として事前講習の導入
②[情報検索→情報の再構成→プレゼンテーション]を一連の流れとするカリキュラム構成
③情報センターや図書館との連携強化
3.今年度の学科動向
(1)カリキュラム改訂
上記の中長期的なカリキュラム改革・教学改革の動きと並行して、現行のカリキュラムについても、より実効性のあるものとするための小規模な改訂を今年度も加えました。
まず、コンピュータを「道具」として活用することにより、法情報を収集し、収集した情報を自ら取捨選択・再構成したうえで、情報発信していくスキルを少人数の演習形式の授業で身につけるための「法情報処理演習1」「法情報処理演習2」については、従来は、1年次の「情報処理」において基本的なコンピュータの操作方法を学んだうえで、2年次以降に段階的にステップアップしていくカリキュラム構成となっていました。しかし、近年は高校段階ですでにコンピュータの基本的操作方法については一通り学んでいる学生が増えていることから、これに対応し、より早い段階で実践的なスキルを身につけさせるため、これを前倒しして、1年次の秋学期に「法情報処理演習1」、2年次に「法情報処理演習2」を履修することとしました。これにより、1年次から3年次まで切れ目なく少人数制による演習科目を配置できるとともに、先端分野の法について本格的に学ぶ3年次においては、コンピュータを「道具」として活用するスキルをすでに身につけていることとなり、より高い教育効果が期待できることとなりました。
また、民法分野の科目についても、学習効果をより高めるため、各科目の履修順序および配当年次につき見直しをはかっております。
(2)行事
2006年4月から7月までの行事としましては、まず、5月16日~17日にかけて、消費情報環境法学科と法律学科の合同フレッシャーズキャンプがヒルトン東京ベイにて開催されました。法律劇クイズ、チームに分かれてのゲーム大会、教員との懇親パーティーと企画も盛りだくさんで、入学してから間もない新入生にとっては、消費情報環境法学科のみならず法律学科にも友人を作り、大学の中に自分の居場所を見つけるよい機会となったようです。また、フレッシャーズキャンプにおいては、上級学年のスチューデント・カウンセラー(SC)が準備段階から企画にたずさわり、当日も新入生の誘導からイベントの司会、深夜の見回りまで主体的にこの行事に関わり、頼もしい姿を見せてくれました。
また、6月30日には、白金法学会にご協力いただき、法学部3・4年生および法科大学院生を対象とする懇親パーティーが白金校舎本館10階の大会議場にて開催されました。教員にとっても、普段は自分のゼミに所属する学生とはコンパや合宿を通じて接する機会は多いものの、それ以外の学生とゆっくり話す機会は意外と少ないので、こうした懇親会は教員と学生相互のコミュニケーションを密にするよい機会であると感じました。白金法学会のご支援にあらためて感謝申し上げます。
(3)特別TA制度の導入
大学での勉強方法は高校までとはかなり異なってくる面があり、また、法律学については大学に入ってはじめて本格的に接する学問分野であるため、特に新入生については、学習方法などについて戸惑い、つまずきやすいところがあります。
そこで本学科では、法律学科とともに、法律の勉強の仕方、レポートの書き方、授業での報告準備の仕方などについて丁寧に指導できるように、本年度より特別TA(Teaching assistant)制度を新たに設けました。この特別TA制度とは、現在大学院博士課程で法律学を研究中の若手研究者が学部学生の学習を支援する制度です。今年度は制度導入の初年度として、横浜キャンパスに、月曜から金曜まで毎日2名の特別TAが常駐し、学生からの授業内容についての質問、法律の勉強方法の相談等に応じています(来年度からはさらに制度を拡充し、毎日4名が常駐することを予定しております)。法律科目を担当する教員は白金キャンパスに研究室があるため、特に横浜キャンパスで学ぶ1・2年生については、教員が横浜キャンパスに出講する授業日以外は、個別の質問や相談をするのが事実上困難な状況にありましたが、この特別TA制度がそれを補うものとして機能し、きめ細かな教育を実現するための一助となることを期待しているところです。
(4)就職状況
本学科は2000年設立の若い学科でありますが、2004年3月に初めての卒業生を送り出して以来、就職状況も比較的順調に推移しています。さらに、景気の回復動向に連動し、現在の4年生についても、私が接した範囲では、比較的早い段階で複数の内定を示され、「いずれの企業の内定をお受けするか」というある意味贅沢な悩みにくれる学生も見受けられます。
キャリアセンターの資料によると、2006年3月の本学科卒業生の就職内定者業種別比率は以下の通りです(2006年2月28日現在。全学科のデータは、キャリアセンターのホームページhttp://www.meijigakuin.ac.jp/career/に掲載されていますので、ご参照ください)。
サービス・人材・ホテル 6.5%
ファッション 8.3%
エレクトロニクス 13.3%
IT関連 15.8%
旅行・運輸・物流 2.9%
建設関連・ライフライン 12.6%
商社・流通 10.1%
金融・保険 17.3%
マスコミ・クリエイティブ 2.5%
教育・コンサルタント・非営利 6.1%
医療・福祉 1.8%
公務員 2.9%
業種別の比率としては、エレクトロニクス(13.3%)、IT関連(15.8%)、金融保険(17.3%)の割合が高くなっております。金融・保険業については、他の学部・学科においても比率が高い傾向にありますが、エレクトロニクス、とくにIT関連については、他の学部・学科に比べても突出して高い比率を示しています。これについては、学科の授業を通じて、コンピュータの単なる操作方法・技術のみならず、それを「道具」として活用するスキルを身につけていることが反映しているものと考えられます。いわゆる文系型の進路のみならず、エレクトロニクス、IT関連といった進路も広く拓かれている点は、本学科卒業生の強みということができます。
4. おわりに
本文中でもご紹介しましたとおり、現在、消費情報環境法学科においては、中長期的な視野に立った抜本的な教学改革・カリキュラム改革について検討しております。よりよい教育を目指し、学科一丸となって取り組んでいく所存ですので、今後益々のご支援をお願い申し上げます。