歴代の学科主任報告

消費情報環境法学科の新たな取り組みを中心として

山本 研

1.はじめに
この会報が白金法学会会員の皆様のお手元に届くのは秋口であろうと思いますが、この報告を執筆している今は、まだ梅雨明けを間近に控えた7月です。この季節、電車に乗ると車内広告で各大学のオープンキャンパスの案内が数多く目にとまります。その広告も、一昔前の、開催日時と場所、あとはキャンパスの写真を載せた程度のある意味素っ気ないものに比べると、非常に工夫を凝らしたものになってきているという印象を受けます(ちなみに、本学では、7月21日(白金)、28日(横浜)、9月16日(白金)でオープンキャンパスを開催しますが、現在のところ電車の車内広告は行っていないとのことです)。こうした動向は、少子化に伴ういわゆる「大学全入時代」の到来を間近に控え、各大学とも対外的にその魅力をアピールすることに積極的に取り組みはじめたことの一つの現れといえると思います。本学においても、ブランディング・プロジェクトが大々的に展開され、メディアへの露出頻度も確実高まっております。

こうした、大学・学部学科の魅力を対外的にアピールする機会の増加、手法の洗練ということも重要ではありましょうが、それが意味を持つのは、大学・学部学科にアピールすべき魅力があってのことだと考えております。ことに消費情報環境法学科については、現代社会において生起する先端分野の法律問題を学習の中心とするという特性から、社会の変化に応じてカリキュラムや教育体制につき、適宜見直しをはかる必要があるとともに、それを通じて、学科における教育の一層の充実を図ることこそが、本学科の社会的評価を高め、真に魅力ある学科となる途だと考えております。そこで、本学科では、教育体制・カリキュラムにつき、現状に満足することなく検討を加え、改革に取り組んでおります。以下、昨年度から今年度にかけての本学科の取り組みにつき、その概要を紹介させていただきます。

2.戦略的教学改革プログラムの採択
明治学院大学では、昨年度、「戦略的教学改革プログラム2006」と銘打って、各学科における教学改革についての諮問がなされました。これは、各学科から提出された教学改革案につき、学長室で審査をした上で、採択された改革案に対しては、2007年度からの実施に必要な予算措置がなされるという、いわば各学科における改革案を競わせるという性格のものです。これを承け、本学科では教学改革検討委員会を設け、教育体制・カリキュラムにつき抜本的な検討を加え、改革案を取りまとめて2006年9月に提出しました。その結果、本学科の改革案については全て採択され、(1)「入学前教育の充実」、(2)「国家資格取得についてのサポート強化」、(3)「実務教育の拡充-中央官庁の消費者法関連部門との連携」につき、2年間で合計500万円余りの予算措置を獲得することができました。これは、全学科の中でも突出した予算配分とのことで、本学科における教学改革への取り組みがそれだけ高く評価された現れであると自負しているところです。

以下、予算措置のなされた3点につき概要を紹介させていただきます。

(1)入学前教育の充実
本学科においては、一般入試とともに、自己推薦AO入試等の推薦入試を実施しております。推薦入試については、一般入試に比べ、入学前年度の11月ないし12月という比較的早い時期に入学が決定するという特徴があり、入学までの期間においては、大学入学後の専門的教育の基礎となる受験勉強に偏らない総合的な学力を涵養することが期待されています。そこで、本学科では高等学校を卒業したばかりの新入生を大学での授業にスムーズに移行させ、学科における学修をより実効性あるものとするという観点から、この時期における教育につきより積極的に関わる必要があると考え、教学改革の一環として入学前教育の充実に取り組むことにしました。

具体的には、本学科における学修の基礎となるようなテーマを選定した上で、入学までの期間に3本程度のレポート課題を出題し、これを添削した上で返却するという形で入学前教育を行うこととします。これを通じて、文章の書き方やその作法などにも注意を払う必要性を喚起し、論理的な文章を読んだり書いたりすることに少しでも慣れさせることを目的としています。また、2006年度より法学部において導入した特別ティーチング・アシスタント(特別TA)制度を活用し、希望者に対しては特別TAによる個別面談/指導を行うことも予定しています。

(2)国家資格取得に対するサポート強化
本学法学部においては、法律関係、行政関係の専門職に就くための国家試験受験者、および、各種国家資格試験受験者をサポートするため、国家試験対策室を設置し、課外講座を開講しています。単に大学を卒業するだけでなく、そのような試験に合格し本学科での勉学の成果を大きく活かす職業に就く卒業生を排出することは、本学科における学修の意義を実証することにもつながるものであり、そのサポートを強化することの意義は大きいと考えるところです。しかしながら、国家試験・資格試験の「受験勉強」一辺倒となり、学科の学修がおろそかになってしまうのであれば、本末転倒の誹りは免れず、これら国家試験・資格試験についても、学科における学修と連動させ、その延長線上に位置づける形でサポートをはかる必要があります。

そこで、本学科におけるサポート強化のあり方として、学部授業の成績について一定の基準(2007年度はGPAが2.6以上)を設け、当該基準を満たす学生については、国家試験対策室が開講する課外講座の受講料を免除するという形で支援をすることとしました。このようなサポートの導入により、成績優秀な学生に対し国家試験・資格試験受験についてのインセンティブを与えるとともに、国家試験・資格試験受験希望者に対しても学部授業に対する真剣な取り組みを促すという相乗効果が期待されるところです。

(3)実務教育の拡充-中央官庁の消費者法関連部門との連携
本学科における学修の中心の一つと位置づけられる消費者法は、消費者問題の発生に対応して実践的に生成されてきたという背景を持つことが特徴としてあげられます。そのため消費者法を学ぶにあたっては、立法や改正等の過程や運用状況、その背景となった問題等についても総合的に把握することが重要となります。そこで、立法の背景や運用についての総合的な実態を知るため、内閣府を中心とする監督官庁の立法担当者や運用担当者によるオムニバス形式の授業(「消費者法の実務」)を今年度から開講することとしました。

今年度の授業内容、および、担当者は以下の通りです。

第1回 消費者法の実務-総論   (内閣府国民生活局総務課長)
第2回 消費者基本法とその運用  (内閣府国民生活局消費者企画課長)
第3回 製造物責任法の内容    (内閣府国民生活局消費者企画課)
第4回 製造物責任法の運用    (内閣府国民生活局消費者企画課)
第5回 消費者契約法の内容と運用 (国民生活センター企画調整課長)
第6回 消費者契約法の改正    (内閣府国民生活局消費者企画課)
第7回 公益通報者保護法の内容と運用(内閣府国民生活局企画課長)
第8回 個人情報保護法の内容   (内閣府個人情報保護推進室長)
第9回 個人情報保護法の運用   (内閣府個人情報保護推進室)
第10回 立法過程-製造物責任法を例として (内閣府国民生活局総務課長)
第11回 独占禁止法の内容と運用  (内閣府大臣官房企画官)
第12回 景品表示法の内容と運用  (公正取引委員会事務総局)
第13回 消費者法の国際展開     (内閣府国民生活局消費者企画課国際室長)

以上の通り、「消費者法の実務」は、消費者関連法について、第一線でその立法・運用に携わる講師陣によるオムニバス形式の授業であり、消費者法関連科目をカリキュラム上設置している大学は数多くありますが、これだけの講師陣による授業を提供できるのは、本学科だけであると自負しております。理論はもとより、このような実務に即した授業を通じて、学生の知的好奇心が喚起され、本学科における教育の一層の充実に結びつくことが期待されます。

3.「情報」教員免許課程の設置申請準備
現在、高度情報化社会の進展、および、高等学校における「情報」教育の必修化に伴い、情報教育を担う人材の育成が社会的に求められています。本学科においては、法律を学ぶ道具としてコンピュータを活用しており、「情報処理1~4」、「法情報処理演習1/2」と情報関係についても充実したカリキュラムを擁していることから、このような現状を踏まえ、来年度(2008年度)、高校一種免許課程「情報」の課程認定申請を行う予定で現在その準備を進めています。

これまでのところ、「情報」の教員免許課程については、いわゆる理科系、情報系の学部・学科に設置されるケースが多く、本学科の申請が認められた場合、文科系でありながらも「情報」の教員免許を取得することが可能となり、他にはない、本学科の大きな特長となることが期待されています。

4.就職状況
バブル経済崩壊後の長引く不況もようやく底を打ち、景気回復にも薄日が差し始める中、大学新卒者の就職状況も一時期の「氷河期」を脱したといわれています。こうした追い風の中、本学科の卒業生についても就職状況は堅調に推移しています(具体的な進路の詳細については、本学のキャリアセンターのHP(http://www.meijigakuin.ac.jp/office/career/)に掲載されておりますのでそちらをご参照ください)。

本学科卒業生の就職先として、一番多いのが金融関係であり、全体の20%を占めています。これは、法律学科、政治学科にも共通するところであり、全国的にも法学部卒業生の就職先としては、金融機関が一定割合を占めているようです。これに対し、本学科の特徴としては、IT関連・エレクトロニクス関連企業へ就職する学生の割合が高いことがあげられます。過去3年間(2005-2007年3月卒業生)のデータでみますと、IT関連が12%、エレクトロニクス関連が10%と、本学における就職内定者業種別比率でも、最も高い割合を示しています。コンピュータに「使われる」のではなく、情報の収集・整理・発信のための「道具として使いこなす」スキルを、本学科のカリキュラムを通じて身につけていることが、企業においても高く評価されている一つの現れであると考えられます。

5.おわりに
以上の通り、全学的な教学改革の流れの中、本学科においても、様々な改革に取り組んでおります。しかし、単に小手先の改革を繰り返すばかりでは、むしろカリキュラムは継ぎはぎだらけのものとなり、教育体制は指針を失い不安定なものとなりかねません。私たちもこの点については十分に留意し、長期的視野に立った骨太な、地に足の着いた改革を志向しております。

教学改革の一環として、昨年度、学長室から改革に向けての検討課題につきアドバイスを受けました。その中で、「消費情報環境法学科」という学科名称が長すぎるとともに、高校生に対するアピールに欠けるので、学科名の変更についても検討してはどうかとの指摘がありました。これにつき、学科会議を開催し検討した結果、この学科名こそ「先端分野の実践的な法律を、コンピュータ技術を活用して学ぶ」という本学科の基本姿勢を端的に表すものであり、本学科の立脚点であるのだから、安易に変更すべきではないとの結論に至りました。これからも、足下を見失うことなく、よりよい教育を提供できるような改革に着実に取り組んでいく所存ですので、白金法学会会員の皆様におかれましても、今後ともご支援とご指導を賜りたく、お願い申し上げます。