学科創設20年を迎えるにあたって

消費情報環境法学科所属 大野 武

今から20年前を振り返ってみると、当時はどのような時代であったでしょうか。経済的には、バブル経済崩壊後の「失われた10年」の真っ只中にあり、就職状況も厳しい状況が続き、就職氷河期ともいわれた時代でありました。そのため、当時の就活生たちは就職氷河期世代あるいはロスジェネ世代とも呼ばれました。そして、このような長期にわたる景気低迷はデフレを誘発し、非正規雇用の増大などにより労働市場は厳しさを増す一方でありました。しかし、他方で、デフレは低価格で質の良いモノやサービスが提供される時代をももたらしました。私たちは、不況下にありながら、豊かな消費生活を享受することができるようになりました。そして、そのような中にあって、情報化社会はさらに進展し、インターネットや携帯電話が一般に普及していきました。当時は、スマホなどは当然なく、ケータイがあるだけで(この時代はもちろんガラパゴス化以前ですので、ガラケーという言い方も当然ありません)、それゆえLINEもFacebookもTwitterも当然ありません。それでも、当時を振り返るならば、結構豊かな消費生活を楽しんでいたような気がします。

さて、それから20年が経過した現在は、どのような時代であるしょうか。もちろん、コロナ禍による混乱がもたらされている時代ではありますが、そのような状況であっても、GAFAと呼ばれる巨大企業(Google、Apple、Facebook、Amazon)によるIT市場支配は何ら揺らぐものではありませんでした。この20年の間に情報化社会はものすごい勢いで発展していったのであり、私たちにとってITは生活や仕事に欠かすことができない存在として、ビジネス、消費、雇用など、ありとあらゆる仕組みを大きく変化させ、私たちのライフスタイルをいつの間にか規定するようになっていったのでした。

それでは、20年前に設置された消費情報環境法学科は、このような時代の変化に対応できているでしょうか。確かに、設立当初はその時代に対応した画期的な学科であったと思います。来たる情報化社会の進展を見据えて、先端的な法律分野(消費者法・企業活動法・環境法)を学ぶという方向性は間違っていなかったと思います。しかし、この20年の間の情報化社会の進展を踏まえますと、学科の方向性も修正していく時期にさしかかっているのではないかとは感じています。あくまで個人的な感想程度ですが、もっと「情報」を前面に押し出した学科の構成とし、「情報」と「法律」を接続する科目(情報社会論や情報ビジネス論など)を設けるなどし、その上で先端分野の法律科目群を再構成していくといったことが必要になっているのではないかとは思っています。

ところで、私自身は、不動産法を専門にしておりますが、民法科目をも担当しております。民法はなかなかすごい法律でして、社会のあり様がどのように変化したとしても、社会の基本的な仕組みや構造を体系的に説明できる普遍的な学問分野であります。そして、先端分野の法律科目も、民法などのような普遍的な法律が土台となって形成されています。そうしますと、消費情報環境法学科は、その基本構成が「情報」と「法律」の2本立てになっているわけですから、いわば、時代の変化に対応した現代的な知識やスキルとともに、時代の変化にもかかわらずいつまでも通用する普遍的な知識やスキルを同時に学ぶことができる学科ということになります。私自身は、そのことがこの学科の最大の存在意義ではないかと考えています。

この度、学科創設20周年を迎えることができましたが、このことはこれまで学科の設立・運営に携われてきた多くの方々のご努力の賜物であろうと思います。そして、次の30周年においては、この学科が時代に即応したさらに有意義な学科となれるよう、私自身、微力ながらも尽力できればと思います。