消費分野の主な取り組み
消費情報環境法学科所属 圓山 茂雄
(1)消費者法の分野では、特色のある取り組みを継続しています。
①平日の6時限に、独立行政法人国民生活センターの職員による「消費者法演習」を開講する。
②土曜日に消費者庁の職員による「消費者法の実務」を開講し、消費者法の立法及び運用を講義する。
③消費者行政や消費者団体に学生を派遣して、インターンシップを実施する。
④消費者関連の国家資格(消費生活相談員、消費生活アドバイザー)を取得するための講座を開講する。
⑤消費生活相談の実務者向けに、公開講座として消費生活相談フォローアップ講座を開催する。
以下、それぞれの現況を報告します。
(2) 「消費者法演習」の開講
消費者法は、消費者トラブルの状況を踏まえて立法されてきたといった背景があり、消費者法を学ぶには、実際の消費者トラブルの実態を知ることが重要です。そこで、学科創設時から、消費者トラブルの実態を学ぶ科目として「消費者法演習」が配置されたのです。
消費者トラブルは、経済社会の動向や消費者特別法等の立法や改正などを背景に、常に新しい手口や問題が発生しています。そこで、消費者トラブルの情報が集約され、常に最新の情報に接している国民生活センターの消費生活相談業務経験者を非常勤として、少人数の演習科目を開講したのです。
学科創設当時は国民生活センターと連携し、国民生活センターから組織として職員6人を非常勤講師として派遣してもらい、週3コマ春学期と秋学期に学科の必修科目として開講していました。職員の中でも、消費生活相談業務の担当か担当経験のある職員や役員が非常勤講師となっていました。消費者トラブルの生の情報や経験をもとに演習方式の授業が行われ、意義深く特色のあるものとなっています。
現在は、組織としての派遣ではなく、非常勤講師陣の推挙で採用していますが、消費生活相談業務経験者であることなどは同様です。当初から必修の授業として実施されてきましたが、学科での学生の興味が多様化してきたことなどあり。2017年度生以降は選択必修科目となり、週2コマ春学期、秋学期の6時限4コマとなっています。
(3) 「消費者法の実務」の開講
2007年度から、土曜日の2限に消費者法の立法や運用の実務を学ぶ「消費者法の実務」を開講しています。開講当時は、内閣府国民生活局の消費者政策担当職員、2009年秋からは創設された消費者庁の職員を中心に主な消費者法の立法や執行の担当者や担当経験者によるオムニバス形式で行われていました。当該職員が総論や立法過程等を担当し、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)や公益通報者保護法、個人情報保護法などは、各法の担当者か担当経験者に依頼していました。
基本的に春学期開講ですが、他の講義とのバランス等で受講者が多くなった際は、春学期と秋学期と両方開講した年もありました。2014年度からは、消費者庁の職員1名を非常勤講師とし、個人情報保護法や電気通信事業法など専門的な一部の法律に関して、ゲストスピーカーにお願いするという方式で行っています。消費者特別法の所管の担当課長による講義もあり、その時々の最新の生の情報に触れることができ、学生には大きな刺激になっています。
表は、2019年度の実施内容です。
2019 春学期「消費者法の実務」
講師肩書 | テーマ | 備考 | |
第1回 | 消費者庁課長補佐 | イントロダクション | |
第2回 | 元内閣府国民生活局長 | 消費者問題の歴史と消費者基本法 | ゲスト |
第3回 | 消費者庁課長補佐 | 消費者政策の推進主体と法 | |
第4回 | 消費者庁課長補佐 | 消費者契約法の内容と運用 | |
第5回 | 消費者庁課長補佐 | 特定商取引法の内容と運用 | |
第7回 | 前消費者庁専門官 | 若者の消費者教育と消費生活センター | ゲスト |
第8回 | 消費者庁課長補佐 | 消費者取引に関するその他の法律 | |
第9回 | 消費者庁課長補佐 | 景品表示法等表示関連法の内容と運用 | |
第10回 | 消費者庁課長補佐 | 消費者安全法等完全関連法の内容と運用 | |
第11回 | 総務省消費者行政第一課長 | 電気通信事業法の内容と運用 | ゲスト |
第12回 | 消費者庁総長補佐 | 公益通報者保護法の内容と運用 | |
第13回 | 弁護士
(元消費者庁個人情報保護推進室) |
個人情報保護法の内容と運用 | ゲスト |
第14回 | 消費者庁課長補佐 | 近時の消費者問題と消費者法 |
(4) 消費者行政、消費者団体におけるインターンシップの実施
2008年度から、地方自治体の消費生活センターや消費者団体へ学生を派遣するインターンシップを実施しています。学生が消費者行政や消費者団体の現場を経験することにより問題意識を高め、大学での学びが深まるように、法学部は17の団体とインターンシップ協定を結びました。
インターンシップを履修登録した学生は、夏休みの期間に45時間以上(1~2週間)これらの団体に出勤して実習を行い、秋学期の成果報告会を経て2単位を取得しています。
派遣先と実習人数を表にまとめました。 (単位:人)
派遣団体名 年度 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 計 |
神奈川県 | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 2 | 2 | 1 | 5 | |
横浜市 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 1 | 23 | |
川崎市 | - | - | - | - | 1 | 1 | 2 | 3 | 3 | 2 | 2 | 3 | 2 | 19 |
鎌倉市 | - | - | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 1 | 1 | 20 |
東京都港区 | - | 2 | 1 | 2 | 1 | 1 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 | 13 | ||
盛岡市 | - | 2 | 1 | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 3 |
岐阜市 (注) | - | - | - | - | (1) | (1) | (2) | 1 | (1) | 1 | ||||
滋賀県野洲市 | 2 | 1 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 | 11 | |||||
国民生活センター | 1 | 1 | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 2 | |
全国消費者団体連絡会 | 1 | 1 | - | - | - | - | - | - | 4 | 2 | 2 | 3 | 13 | |
全国地域婦人団体連絡協議会 | - | - | 2 | 1 | 1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 2 | 1 | 17 | ||
日本消費者協会 | 3 | 4 | 2 | 2 | - | - | - | - | - | - | - | 2 | 2 | 15 |
日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 | - | - | 2 | 2 | 2 | 2 | 1 | 3 | 2 | 2 | 2 | 18 | ||
全国消費生活相談員協会 | 2 | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 2 |
いわて生活者サポートセンター | - | - | - | 1 | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 1 |
社会的包摂サポートセンター | - | - | - | - | 1 | 2 | 1 | 1 | - | - | - | - | 5 | |
インクルいわて | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 1 | 1 | |||
関西消費者協会 | 2 | 1 | 2 | 1 | 1 | 2 | 1 | 1 | 10 | |||||
計 | 11 | 12 | 15 | 13 | 12 | 12 | 14 | 16 | 17 | 22 | 15 | 12 | 8 | 179 |
(注)「-」は協定の締結前の時期や、休止した時期を示す。
岐阜市とは協定を結ばずに、消費譲歩環境法学科の学生のほか法律学科、政治学科の学生(カッコ書の計5人)も派遣した。消費情報環境法学科の学生(1人)のみ単位を認めたので、実績は1人とカウントした。
(5) 消費者関連の国家資格取得を支援する講座
消費者に関する資格は主に2つあります。
国民生活センターは消費生活相談員試験(2015年度までは消費生活専門相談員試験)を実施し、合格者には消費者安全法に基づく国家資格「消費生活相談員」を付与しています。
日本産業協会は消費生活アドバイザー試験を実施し、合格者には消費生活アドバイザーと「消費生活相談員」を付与しています(2015年度までは、消費生活アドバイザー資格のみ付与)。
いずれも主に社会人が受験し、合格率は3割台で、学生の合格者はほとんどいない難関試験です。
2008年度、学生が在学中にこれらの試験に合格することを目的に、消費者関連資格取得支援講座を開講しました。2009年度からは社会人の受講も認め、2019年度までに学生95人、社会人115人が受講しました。2020年度は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出る事態となり、開講を中止しました。
受講人数の推移 (単位:人)
年度 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 計 |
学生 | 14 | 7 | 9 | 11 | 14 | 9 | 7 | 6 | 10 | 3 | 3 | 2 | 中止 | 95 |
社会人 | 6 | 20 | 19 | 13 | 8 | 8 | 5 | 8 | 7 | 11 | 10 | 115 | ||
合計 | 14 | 13 | 29 | 30 | 27 | 17 | 15 | 11 | 18 | 10 | 14 | 12 | 210 |
合格人数の推移 (単位:人)
年度 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 計 |
国民生活センター実施試験合格者 | 0 | 1 | 4 | 1 | 1 | 3 | 1 | 1 | 4 | 4 | 2 | 4 | 26 | |
(内訳) 学生 | 1 | 1 | 2 | |||||||||||
社会人 | 3 | 1 | 1 | 3 | 1 | 1 | 4 | 4 | 2 | 4 | 24 | |||
日本産業協会実施試験合格者 | 2 | 4 | 4 | 3 | 4 | 4 | 1 | 2 | 4 | 28 | ||||
(内訳) 学生 | 1 | 2 | 2 | 1 | 6 | |||||||||
社会人 | 1 | 2 | 4 | 3 | 2 | 3 | 1 | 2 | 4 | 22 | ||||
合格者合計
|
3 | 8 | 5 | 4 | 7 | 5 | 2 | 6 | 4 | 6 | 4 | 54 |
(注) 2020年度試験は一次試験が10月に実施され、合格発表は年末から年明けとなる。
講座は、4月から9月の木曜日の夕方と土曜日に実施しました。
資格試験の科目は、消費者法だけではなく経済、家政科目にわたって幅広いため、消費者法の復習及び深化に加えて、法学部学生には手薄となる、経済、家政科目、小論文の科目を設けました。木曜日夕方の2コマ、土曜日午前午後の4コマを基本とし、夏休みに集中講義を行って、計105コマを講義しました。
カリキュラム構成は、下記のとおりです。
木曜日5時限「消費者行政法」14コマ (消費情報環境法学科の正規科目。表示分野、安全分野を詳しく)
木曜日6時限「消費者法」13コマ (国家試験対策室の課外講座。出題傾向に沿って必須知識を講義)
土曜日1時限「法律学特講」14コマ (正規科目。取引分野を詳しく)
土曜日2時限「消費者法の実務」14コマ (正規科目。消費者庁職員による講義)
土曜日3~4時限「商品知識」14コマ(課外講座。衣食住、環境分野の出題傾向に沿って基礎知識を講義)
「消費者法応用」14コマ(課外講座。消費者行政などを補充して講義)
夏休み期間の集中講義「消費経済」14コマ(出題傾向に沿って法学部学生向けに講義)
「時事問題・小論文」8コマ(小論文の書き方、添削を含む)
両試験とも学生の合格者はほとんどない中で、明治学院大学から国民生活センター実施試験に2人、消費生活アドバイザー試験に6人、計8人の学生が合格しました。資格取得の勉強を生かして、多くの学生が消費者関連の職業を希望し、実際に就職しています。一方、ここ数年は、民間企業の就職が好調なのに加えて公務員セミナー受講者が増加したため、当講座の学生の受講が減少し、その結果、学生合格者が出ていない状況です。
社会人受講者のほとんどは、今まで法律とは無縁だった方々です。学び直しや就職を目的に、熱心に通学され受験準備をされた結果、多数の合格者を輩出しました。企業のお客様相談部門に勤務されたり、地方自治体の消費生活相談員に就職されたりして活躍されています。
(6) 消費生活相談フォローアップ講座
国や地方自治体の消費者行政の現場では、消費者に関する資格を取得した方々が実務についておられます。新しい商品やサービスが現われたり、立法や改正がなされるなどの変化に対応できるように、学生と実務者が一緒に聴講できる公開講座として、2008年度から消費生活相談フォローアップ講座を開催しています。
2008年、2009年は、概ね、本学の教員が法律の改正を解説しました。2010年以降は、変化が激しく、消費と情報の側面をもつ、代金決済サービスを取り上げ、実務に詳しい講師を招いて講演とバネルディスカッションを行いました。新サービスの仕組みを解説する回もあれば、端末、セキュリティ、法改正など特定のテーマを設けた回もあり、深く掘り下げる講座を組み立てたので、全国から聴講者が集まる行事となりました。
開催日 | テーマ | 内容 |
2008年
9月20日(土) |
本学教員の連続講義 | 講義「消費生活相談の理念」「特定商取引法と割賦販売法の改正」「事故と安全をめぐる制度改正」 |
2008年
9月21日(日) |
ワークショップ | 消費者庁構想で一元化する相談窓口におけるワンストップ相談の在り方 |
2009年
11月7日(土) |
本学教員の連続講義 | 講義「消費者庁と消費生活相談」「事故と安全をめぐる制度改正」「欠陥住宅問題の法制度の動向」「特定商取引法と割賦販売法の改正」 |
2009年
11月14日(土) |
ワークショップ | 一元化する相談窓口におけるワンストップ相談の在り方 |
2010年
11月6日(土) |
ワークショップ | 講演「生活再建を支援するパーソナル・サポートサービス」事例討議「詐欺的投資商法」 |
2010年
11月13日(土) |
クレジットカードシステムに便乗した悪質商法への対応策を探る | 講演「クレジットカード決済システム」
パネルディスカッション「カードトラブルへの対応」 |
2011年
12月3日(土) |
新しい決済サービスの仕組みと安全確保に向けた課題を探る | 講演「新しい決済サービスの仕組みと安全確保の課題」
パネルディスカッション「トラブル解決策を探る」 |
2012年
10月28日(日) |
新しい決済サービスの仕組みと安全確保に向けた課題を探る | 講演「新しい決済サービスの仕組みと安全確保の課題」
パネルディスカッション「トラブル解決策を探る」 |
2013年
11月30日(土) |
スマートフォン決済の仕組みと課題 | 講演「スマートフォン、ECを中心とした決済サービス」
講演「スマートフォン決済の全サービスの内容について」 パネルディスカッション「想定されるトラブルと課題」 |
2014年
10月25日(土) |
最近の決済サービスの動向-プリペイド決済を中心に | 講演「ネット専用カード、デビット決済、プリペイド決済」
パネルディスカッション「プリペイド決済トラブルの解決策」 |
2015年
10月10日(土) |
最近の決済サービスの動向と紛争解決を進める交渉の方法 | 講演「最近の決済サービスの動向」
パネルディスカッション「クレジットカード、電子マネーの交渉方法の事例研究-消費者側、事業者側の異文化コミュニケーション」 |
2016年
10月8日(土) |
クレジットカードのセキュリティ-不正使用の手口と原因を探る | 講演「カード不正使用の手口と原因」
講演「割賦販売法改正案でどう変わるか」 パネルディスカッション |
2017年
9月30日(土) |
最近の決済問題の基本の理解と事例検討 | 講演「後払い式決済の基本的仕組み」
講演「前払い式決済の基本的仕組み」 事例検討 |
2018年
1月6日(土) |
滋賀県野洲市のくらし支えあい条例の1年間を検証する | 野洲市役所職員の報告と、パネラーのコメントを交えて進行 |
2019年
2月11日(祝) |
割賦販売法改正後のクレジットカードトラブル | 講演「法令、自主規制規則、実行計画2018の内容と実務対応の変化」
パネルディスカッション |
2019年
12月14日(土) |
スマホアプリとキャッシュレス決済の今後と消費者トラブル | 講演「2020年6月までのキャッシュレス決済ポイント還元の仕組み」
講演「スマホ・情報通信の基礎とスマホアプリとキャッシュレス決済」 パネルディスカッション |
2020年12月5日(土)を予定 | キャッシュレス決済-昨年から今年の変化 | オンラインで開催する予定 |