消費情報環境法学科設立20周年に寄せて
消費情報環境法学科所属 高橋 順子
私が本学科の情報処理担当教員として赴任したのは、学科が設立された2000年4月の2年後でした。純粋な自然科学分野出身の私にとって、法学部の学生相手にどのように情報処理教育をしたらよいのか、最初は戸惑いがあったものです。
情報処理の授業のうち、「情報処理1」ではWordを使った文書作成、「情報処理2」ではExcelを使った表計算、「情報処理3」ではPerl言語によるプログラミングを学習します。主にアプリの使い方を学ぶだけの「情報処理1」と「情報処理2」の授業は、社会で生きていく上で必要な技術を習得するということが学習の動機となり得るので、学生は学びやすく、履修者も大勢います。しかし、真に情報処理を学ぶためには、プログラミングを学習することが不可欠です。プログラミングというと、難しいと感じる学生が多いせいか、履修者が少数ですが、学生に一番学んでいただきたいのが「情報処理3」です。
プログラミングの授業は、ワープロの授業ではありませんから、単に例題のプログラムを丸写しにしただけでは勉強できたことになりません。プログラミング言語の文法とデータ処理の手順を理解し、応用できるようにまでならないと、プログラミングを習得したことにならないのです。理解するためには、自分から理解しようとしないといけません。「情報処理3」の授業で、私が一番苦心したのは、学生にどうやって学習する動機を持ってもらうかでした。
学習の動機として目をつけたのがゲームです。ゲーム好きの学生は大勢いますから、ゲームのプログラムがどういう仕組みになっているのか興味を持ってもらえると考えました。そこで、私が担当する「情報処理3」の授業では、ゲームのプログラムを教材として学習してもらい、自分自身でオリジナルなゲームのプログラムを制作することを最終課題としました。学生たちは、私が驚くほど、多種多様で、思いもよらないルールやストーリー性のあるゲームのプログラムを制作してくれて、結果は大成功でした。
さらに、私は、3年生以上向けの科目として、「ゲームプログラミング研究ゼミ」、通称、「ゲムプロゼミ」を開講し、上級プログラミングを学ぶための場も提供しました。このゼミでは、Perl言語よりも難しいプログラミング言語であるC系言語を学習して、より高度なゲームのプログラムを制作することを目標としています。最初のうち、このゼミの履修生には、プログラミングよりもゲーム自体にしか興味を持っていない学生が多く、ゼミの目標が達成できないまま終わってしまうケースが多かったのですが、ゼミの達成目標を明確化して宣伝することにより、しだいに学習意欲の高い学生が集まってきてくれるようになりました。
「ゲムプロゼミ」の内容も進化し続けています。数年前から、Unityというゲームエンジンを使ってゲームを制作するようになりました。Unityは、ゲームに必要な基本的な部品や機能を備えており、それらを呼び出すだけで簡単に3Dグラフィックスゲームを作れるようになっています。たとえば、人体モデルが走るときに自動的に手足が動いたり、重力による落下運動や物体どうしの衝突判定などが利用できたりします。それらのことをすべて自力でプログラミングするなら、何万行ものプログラムを書かねばならないところですが、その手間を省くことができ、自分で考えたゲーム独自の舞台やルールの設定などについてのプログラミングだけに集中することができます。
プログラミングを学習する動機は、これまでは個人の興味だけによるものでしたが、2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されたことにより、変化しようとしています。プログラミング教育必修化の理由は、社会全体が高度に情報化され、AIなどの新しい技術がどんどん生まれていく中で、コンピュータを受け身ではなく、積極的に活用する力や、プログラミング的思考力(論理的思考力)が必要とされるからです。プログラミングを知らないままだと、若い世代や子供たちから「え、こんなことも知らないの?」と言われてしまう時代がまもなく来るでしょう。現在大学に在学中のみなさんには、近い将来に社会常識となる知識を身につけることを動機として、プログラミングを学習していただくことを願っています。