消費情報環境法学科20周年に寄せて
消費情報環境法学科所属 櫻井 成一朗
消費情報環境法学科では,学科設立20年を迎えることができました。2020年,学科設立20年の節目に「AIと法」という科目が新設されました。この20年間の前半10年は,AIにとっては冬の時代でした。2012年に,画像認識における深層学習が注目を集めるようになり,その後自然言語処理においても飛躍的な進歩が達成され,AIは第三次ブームを迎えています。明治学院大学法学部では,吉野一教授(現名誉教授)により法律人工知能の先駆的研究が開始され,法科大学院の設置に伴い,吉野教授が法科大学院に転属されると,加賀山茂教授(現名誉教授)をお迎えし,お二人と共に,微力ながら私も加わり,法律人工知能の研究を進めました。法律人工知能研究の伝統ある明治学院大学法学部に時代の要請として「AIと法」という科目が設置された事には感慨深いものがあります。
現在のAIは,深層学習により視覚・聴覚に関しては,人間を凌駕する能力を発揮し,機械翻訳等の自然言語処理においても人間に匹敵する能力を示すようになっています。また,将棋や囲碁においては既に最強のプロ棋士さえもAIには勝てなくなっているのです。もしコロナ禍がなければ,AIによる携帯型機械翻訳機の活躍により,東京オリンピックで来訪された海外の方々との交流が活況を呈していたことでしょう。今やAIは人間の競争相手になり,人間から職業を奪う危惧さえ抱かれていますが,AI無しでは,グローバル経済における競争に勝つことを望めなければ,今後の経済成長も望めません。さらには,コロナ禍によるニューノーマルの時代においては,AIの社会導入に拍車がかけられていくことはまず間違いありません。
このような背景の下では,我々はAIと共存する社会を築いていかざるをえません。21世紀の企業においては,AIの導入はもちろんですが,RPA(ロボティックプロセスオートメーション)と呼ばれる情報処理の自動化技術が導入されるとともに,デジタル化の先にはDX(デジタル・トランスフォーメーション)による社会変革が待ち受けています。AIが社会の隅々まで浸透し,特定の分野において人間を凌ぐとしても,AIは本能や感情を持たないだけでなく,自由意思を持ちません。自由意思を持たない以上,AIに法的責任を課すこともできません。どんなに知的に振舞ったとしても,あくまでもAIはツールに過ぎないのです。ですから,現時点ではAIを作る人間やAIを使う人間が責任を持たなければなりません。
一方,いくら人間並みの翻訳ができるからといっても,AIは言葉を理解していません。AIが言葉を巧みに使いこなせたとしても,言葉の意味を理解して,行動できないのですから,人間が果たすべき役割がなくなることはありません。今のところ,言葉を理解するのは人間にしかできないことなのです。たとえAIがデータに基づき様々な決定を下せたとしても,物事の理解に基づき判断するのは人間だけに許されている能力なのです。法を学ぶことを通じて,物事を理解し,理解に基づき判断できる人材を養成することが,我々,消費情報環境法学科に課されているのだと思います。今日から,この目標のために,私も皆さんと一緒に頑張りたいと思います。