消費情報環境法学科20周年記念にあたり

明治学院大学名誉教授 河村 寛治

消費情報環境法学科20周年記念おめでとうございます!
もう20年もたつのですね。最初の入学者ももう40代でしょうか、中堅社員から管理職になって活躍されておられるのだろうと思うと感慨もひとしおです。

1998年に企業(総合商社)から明学に赴任してすぐ、二部の再編に伴い社会人の受け入れも念頭においた新学科の立ち上げに関与することとなりました。その際、社会へ出て即戦力となる人材の育成を目標とし、学科名が示すように「消費者、企業、環境」を三本柱とし、「情報」を共通のプラットフォームとした学科の理念は、昨今の企業や社会におけるESGやSDGsへの取組みの推進や、ITという情報インフラの重要性を鑑みると、20年という期間が経過しても、学科としての先進性や先見性については間違ってはいなかったという思いを今、改めて強くしております。

当初は、社会人の受け入れも意識し、授業の時間帯も午後遅めに集中させたり、今では当たり前かと思いますが、全員にPCを持ってもらい、情報関連の授業も強化しつつ、伝統的な授業科目からは必修科目を少なくするなど、比較的自由な履修ができることに特に配慮してきました。

最近、AI、Big データやIoTというデジタル技術の飛躍的な革新に伴い、あらゆる業界で、デジタル・トランスフォーメーション(DX)がより現実的なものとなっている現代の情勢を鑑みると、学科の立ち上げに際して、企業人として込めた思いがありますが、それは「リスク管理と制度設計」という科目に具現化されているかと思います。

ちなみに、大学への入学前は、ほとんどが解答のある、あるいは解答が与えられている課題と取り組むこと、および知識を学ぶことを中心とする記憶型の教育が主であったかと思います。しかしながら、いったん社会へでると、与えられる課題のほとんどは、解答のないもの、あるいは複数の解答から適切なものを選択しなければならないというであり、そこでは知識以上に最適な解答を得るべく知恵が求められることになります。

そのためには、常に「リスク」を意識し、それを適切に分析し、適正あるいは適法にマネージすることが求められています。これが「リスクマネジメント」ですが、様々な場面でリスクを意識した運営や経営が必要とされており、法制度自体にも、リスクを社会的に管理するという視点が貫かれているかと思います。

結果として、リスクを管理することで、より自由になるであろうし、法はその自由の実現を目指すものであると思います。自己責任、自己決定とリスク管理は表裏の関係にあるといえるほど深い関係にあり、また、社会や制度について考える際にも、リスク管理という視点は重要な視点を提供するものであり、また社会や制度を維持改善していく上でも有用であるといえるかと思います。

この科目は、どちらかというと「リスクマネジメント」という経営的な側面を意識しつつ、環境問題、企業活動、独禁法、犯罪、消費者保護、人権侵害や基本的人権などの視点から、「リスク管理と法制度」ということを考えることを主要な命題として、「リスク」や「リスク管理」を共通の切り口として、それぞれの分野の専門家の先生方にオムニバスで担当していただき、履修者においては、「リスク」や「リスク管理」を常に多面的な視点をもって考える習慣をつけるという点において、特色があると考えておりました。このような「常に問いかける」という教育の在り方は、かつての薩摩における「郷中教育」のように、「詮議」、つまり常に問いかけ、考えさせる訓練を実践するという、どちらかというと実際的な知恵をつけるすべを持つ教育といった画期的なものであったのではないかと思っています。

以上のような特色のある多様な教育を受けた方たちにとっては、社会に出てから、伝統的な法制度という基盤だけでなく、新しい社会の課題に向けた多面的な法制度の在り方を考える機会を経験していただけるものと確信しております。

本学科の教育や運営に関与される先生方を含め、関係者の皆様には、引き続き、本学科の発展に頑張っていただければと願い、本学科の構想に関与した一人として、一言、お祝いとともに、設立時の思いを付言させていただきました。
以上