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白金法学会

最優秀卒業論文賞

2003年度 白金法学会最優秀卒業論文賞

受賞者には、2004年3月25日の卒業証書授与式会場において、白金法学会から表彰状と賞金が授与されました。

◇法律学科 西 菜穂(にし なほ)
『所沢ダイオキシン訴訟に見るマスメディアによる名誉毀損 -真実性の証明の判断基準について-』 

 1999年テレビ朝日ニュースステーションは、所沢産野菜のダイオキシン類濃度が高く、安全性に 問題があると報道した。その後、報道内容の不適切な部分が明らかとなり、JA所沢市組合員農家376名が2億円の損害賠償と謝罪放送を求めて提訴した。  
 1,2審は農家側の請求を棄却、最高裁では審理を高裁に差し戻す事実上農家側勝訴の判決を言い渡した。  
 一般的に、報道が名誉毀損に問われた場合、①事実の公共性、②目的の公益性、③事実の真実性が認められれば名誉毀損は成立しないとされている。  
 本件における問題は、③事実の真実性についてである。この真実性の証明については、主要ないし重要な部分についてなされれば足りるというのが判例であ る。1,2審は、このような下級審判例を適用したが、最高裁は、発言やテロップの内容だけではな く、映像や効果音なども加えた「一般視聴者が受ける印象」が基準になるとの、影響力を増した映像メディアの特性に踏み込んだ判断を示した。  
 この判決の意義は、名誉毀損の判断基準を、報道する側であるマスメディアからではなく、一般視聴者側、被害者の側に移したという点にあるであろう。  
 報道する側は、本件のような公共性の高い問題を取り上げる場合、特に慎重かつ細やかに報道することが望まれる。  
    本件は、現在も差し戻し審(東京高裁)で審理継続中であり、これからもこの裁判のゆくえを見守っていきたいと思っている。

◇政治学科 渋谷 麻里(しぶや まり)
『地域の安全についての一考察:蕨市の街灯の事例を通して』 

 街灯は地域の安全に寄与しているのか。埼玉県内で最も治安が悪い市に位置づけられている蕨市を例に、地域の安全を確保するためと考えた街灯や防犯灯の存在意義とは何か、そして地域の安全を失わせている阻害要因は何か、街灯からみえてくる地域の安全性について、街灯と犯罪の因果関係事例や蕨市をフィールドワークし地域の安全とよりよい街づくりの中での街灯のあり方を考察した。  
 蕨市の犯罪実態と街灯の分布状況をマップ化し、各々の地区ごとに検証を行ったところ、街灯があり明るければ犯罪が少ない地区や明るいのに犯罪が多い地区、街灯が少なく犯罪も少ない等、調査からは街灯が地域の安全に寄与しているのかどうかは不明となった。しかし、街灯設置計画や街灯の種類、設置基準等、安全を基盤に都市計画が行われているとは思えない事実や、曖昧な行政の役割が浮かび上がる。また、コミュニティとしての個々の役割や一住民としての安全で満足が得られる街づくりへの責任等、街づくりにおける街灯のあり方が地域の安全に寄与していると思う。  
 今後は行政の法整備もさることながら、住民も自分達の街づくりをどのようにしていくべきか、イメージをふくらませ、安全・安心の街づくりをつくるために、住民一人一人が、街のあり方についてコンセプトを持つことが必要不可欠である。

◇消費情報環境法学科 鷺 仁子(さぎ じんこ)
『食品安全をめぐる制度と消費者問題』 

 2000 年7月、13,000人以上の被害者を出した 雪印乳業食中毒事件が起きた。翌2001年9月には、日本中を震撼させたBSE(牛海綿状脳症)が発生。その後、制度を悪用する偽装 表示、違法な香料や添加物、農薬の使用など食品の安全性に関わる事件がこの4年間に頻発した。 これらの事件の影響は、消費者の食品に対する安全・安心への関心を促すとともに、違反した企業の解散、行政の政策転換や新たな法律の制定にまで波及した。雪印乳業食中毒事件、BSE事件、食品表示偽装の3つの事件がもたらした効果を評価し、併せて過去の食品安全 をめぐる事件と食品安全に関係する制度制定の背景を整理することによって、今後の食品安全のあり方を考える一助としたい。  
 食品安全と消費者運動の歴史は切り離すことのできない密接な関わりを持っている。食品の安全性が問題になった最初の事件は、悲惨な犠牲者を出した1955年の森永ヒ素ミルク事件であろう。JAS法の整備や景表法の制定に道を開いたのが、1969年のにせ牛缶事件である。当時、危険な商品やサービスに対しては不買運動も辞せず、製造や販売の中止はもとより規制の強化を求める消費者の権利確立のための活動が消費者団体を中心に展開された。消費者運動は食品安全政策の根幹をなす消費者保護基本法、食品安全基本法、消費者契約法、製造物責任法などの法律の制定にも大きな役割を果たした。  
 その他食品を規定する法律には、JAS法、食品衛生法、薬事法、健康増進法などがある。BSE事件は食品安全基本法の制定につながったが、表示偽装事件からは、JAS法に罰則規定が設けられ、食品衛生法もJAS法とともに表示制度の見直しが進められている。食肉の公正取引規約も改正された。そして今回問題にした事件の多くが内部告発によって発覚している。正当な理由に基づく内部告発者を保護する目的で、政府から公益通報者保護法案が公表され、国民からの意見募集が行われているところである。  
 これらの法律の他にも食品安全条例や行政・業界によるガイドラインなども多数制定されており、とくに表示制度に関しては、消費者だけでなく生産者や事業者にも容易には理解できないほど複雑な体系となっているのが現状である。WTO体制の下で、コーデックス食品規格などの国際規格も避けては通れない。関係省庁の連携の下に今後は統一的な対応を検討すべきであると考える。規制緩和と対になって消費者には自己責任が求められているが、消費者が自己の判断で商品や役務を選択できるような教育や情報提供、先の公益通報者保護法のような労働者や消費者を保護する制度の整備も求められる。本稿では、消費者政策についての行政の新しい動きと実行性や役割について、さらに企業に対しては社会的責任やコンプライアンスの実行性、マスコミの影響と責任について、消費者や消費者団体、NPOの役割についても言及した。  
 昨年末発生した米国のBSE事件では、安全基準に対する国や国民性の違いがあらためて認識させられた。科学的な検査や第三者による証明だけが安全性の基準となる訳ではない。絶対的な安全性よりもリスクを取るという価値観も存在するのである。食品安全の視点は、科学技術に基盤をおくもの、消費者運動のからの観点、行政や企業の立場からのものなど多岐にわたっている。学問の分野では、経済学、商学、農業経済、科学、医学など様々な分野からのアプローチがなされているが、包括的な検討がなされているとは言い難い。消費情報環境学を主体とした「学問としての食品安全」の分野を開拓できたらと考える。