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白金法学会

最優秀卒業論文賞

2005年度 白金法学会最優秀卒業論文賞

受賞者には、2006年3月18日の卒業証書授与式会場において、白金法学会から表彰状と賞金が授与されました。

◇法律学科 長岡 蘭(ながおか らん)
『シックハウス症候群―被害者の司法的救済―』 

 科学技術等の発展により、戦後の日本は成長し、世の中は豊かになってきた。しかし、便利になった社会ではあるが、その副作用的なものとして思いもよらぬことで起きる健康障害に悩まされるケースが多発するようになってきた。特に建築物による健康障害の被害は、生活の基本となる場所での被害であり、深刻であると言わざるを得ない。  
 今回私は、「シックハウス症候群」について取り上げた。なぜなら、社会問題化したこの問題は、裁判例も少なく、平成17年12月5日に初めて東京地裁において被害者への損害賠償が認められたという現状が嘆かわしいものだと考えたからである。「シックハウス症候群」は一般的な欠陥住宅問題とは異なり、被害の直接の対象が人の健康であることから、症状の有無や程度には個人差があり、同一環境でも強い症状を訴える人とまったく異常のない人が存在し、画一的な対策では問題が解決するわけでなく、また、因果関係の立証が困難なこと等に難しさがある。  
 本稿では、司法上の救済を考えるためにシックハウス症候群関連の判決を中心に置きつつ、制度的な取り組みも重視した。第一章では、シックハウス症候群の背景または現状を考察し、第二章において、欠陥住宅における一般の司法的救済方法を取り上げた。第三章では、行政上のシックハウス症候群関連対策について検討し、それを含め様々な問題が起きた際の国の姿勢についての考察も加えた。そして、第四章において、シックハウス症候群関連の3つの判決を取り上げて考察を行い、今後の法的問題点を整理した。  
 現在、「シックハウス症候群」という言葉を耳にする機会はあまりない。しかし、実際苦しんでいる人が少なくないことは統計上明らかである。そして、司法的救済という観点からは、シックハウス症候群関連訴訟で初めて被害者に損害賠償が認められた段階であるが、今後、ますます問題の解決が容易になされ、被害に苦しむ人がいなくなることを願う。

◇政治学科大迫 直子(おおさこ なおこ)
『オリンピック招致活動の変遷と課題及びその展望について』 《本文を見る》

 世界最大のスポーツの祭典、オリンピック。この大会を開催する権利を得るための招致活動は、各候補都市間で激しい競争が展開されている。私はこの「国境を越えた都市単位で戦う選挙」に興味を持った。よって本文では、オリンピック招致の目的や効果・問題・成功の要因を言及し、これからのオリンピック招致のあり方を提言する。  
 候補都市がオリンピックを招致する理由は、大会が開催都市にもたらす効果を期待するからに他ならない。国際的地位の向上や、大会をきっかけとした都市開発などの経済効果は、開催都市にとって大きなメリットとなる。しかし、オリンピック効果は、競技施設の後利用、開催都市の財政難といったマイナスの効果も生じる可能性があるために、開催都市を決定するIOC委員たちの責任は重大である。  
 そのIOC委員に対する各候補都市の過剰な招致活動は、昔から問題視されており、公平な投票が行えていないのが現実だ。近年ようやく候補都市に限らずIOC委員に対しての規制も効果を期待できるものとなってきているが、未だに絶対的な解決には至っていない。  
 2012年の夏季大会の開催都市となったロンドンの招致活動は、コンパクトな大会計画と著名人や派手なPR、さらに正当なコンセプトを掲げたことによって報告書でのパリ優勢を覆した。オリンピック招致の鍵は時代とともに変化し続けている。  
 これからのオリンピック招致のあり方に、まずIOCへの過剰な招致活動の抑制が挙げられる。IOCの絶対的権力が成り立つ選挙構造では、マスメディアの外からの監視がより必要である。一方で今後より盛んになると思われるのがPRである。中でも開催都市の市民の理解と協力を得るための内側からのPRと、大会の正当性を確立したいIOCの想いを酌んだ、揺ぎ無い大会コンセプトを掲げることが今後の招致活動で重要な要素になるであろう。お金であれ、巧みなPRであれ、人の心を掴む招致活動に有効な方法はあっても絶対的な方法がないからこそ公平な選定と大会の成功を、私は強く望む。

◇消費情報環境法学科 宇田川大造(うだがわ たいぞう)
『グロティウスの『戦争と平和の法』―その戦争法史における意義―』 《本文を見る》

 戦争、それは多くの人間が憎み、忌み嫌うものでありながらも人間社会が始まって以来、世界中で地域、民族を問わず現在に至るまで途絶えたことのないものである。このような状況下においてヨーロッパでは古来より神学、ついで法学の分野で戦争の正・不正を論じる正戦論が議論されてきた。そのような正戦論の中で、戦争の発生を抑制し、発生した場合の被害を極言するという現代にも通じる理念を持ち、近代国際法に大きな影響を与えているとされるグロティウスが1625年に著した『戦争と平和の法』という歴史的大著を考察の対象に据え、その戦争法の歴史の中における意義を考察することを主目的にした卒業論文が本稿である。  
 本稿は国内の戦前から現在に至るグロティウスの主要な研究成果を踏まえ、グロティウスの『戦争と平和の法』について以下の順序で論じている。  
 第1章でネーデルラント独立戦争やグロティウスの半生などグロティウスが『戦争と平和の法』を書き著すこととなった歴史的状況と背景に触れ、第2章ではグロティウスが『戦争と平和の法』の中で論じた正戦論の下敷きとなったグロティウス以前の正戦論、戦争法の歴史について触れる。そして第3章では『戦争と平和の法』の目的である戦争抑止と戦時被害の軽減、その目的を達成するために採用した法概念やその構成を概説し、第4章でグロティウス以降、現代に至るまでの戦争法を解説していく。  
 このような構成によって、本稿はグロティウスの『戦争と平和の法』の概要と戦争法の歴史を明らかにする。その上でグロティウスが真に「近代国際法の父」といえるのか、という問題に踏み込んでいき、グロティウスが戦時国際法において果たした役割と影響について一定の見通しと評価を試みている。

優秀賞

森谷 類(法律学科)「触法精神障害者の社会内処遇について」
崎浜 淳太(政治学科)「Politicsについて」
鈴木邦子(消費情報環境法学科)「不動産登記法の改正点の内容と今日における問題点」