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白金法学会

最優秀卒業論文賞

2006年度 白金法学会最優秀卒業論文賞

受賞者には、2007年3月20日の卒業証書授与式会場において、白金法学会から表彰状と賞金が授与されました。

◇法律学科 大家 菜々子(おおいえ ななこ)
『少年事件における付添人の必要性と役割についての考察』 《本文を見る》

 少年事件において付添人の選任率は、1割にも満たない。この事実を知ったときには驚いた。予想と遥かにかけ離れた数値であった。付添人とは、刑事事件の弁護人にあたる役割で、少年が適正な保護処分を受けるための協力者である。成人の刑事事件で弁護人が選任される割合は約98%であるのに対し、少年事件では約6.6%しか付添人が選任されない。  
 付添人の役割とは何だろうか、審判にいなくても良い存在なのだろうか。もし付添人が本来は必要な存在であるのに、現状では必要な存在がいないまま審判が進むのならば、少年は十分な保護を受けぬまま、人生の大きな選択を決せられることになる。  
 付添人の活動内容には、少年審判手続きで必要不可欠だと思われる活動が多く含まれている。そして、その活動の中で付添人の福祉的・教育的役割は重要とされ、役割を十分に果たす為にNPO団体による付添人活動の可能性に注目し、活動に実際参加したことを踏まえ考察を行った。  
 少年は付添人活動によって享受できる利益を自ら捨てるわけではない。多くの少年が付添人の存在を知れば、選任を望むと考える。しかし、少年が選任したいという気持ちを実現するには、積極的に付添人を探す必要があるが、少年には自己の権利を実現するのに十分な能力が備わっていない。つまり、少年が付添人の選任を行うには、少年が受動的に付添人と接触できる仕組みが必要である。その仕組みの一つとして、福岡県弁護士会で開始された「当番付添人制度」という、全件に付添人をつけようと目指す制度があり、本稿ではその制度の意義と内容、開始後6年間たった実施状況を紹介する。そして全弁護士会のHPを調査した結果、制度は全国に少しずつ普及している。  
 少年が自分を見直す機会を得、自分の気持ちを伝えきったと感じ、納得して決定を受け入れるのに、付添人は助けとなる。今後少年審判全てに付添人をつける公的な制度が立法化に向けて前進し、その歩みが止まらぬよう、注視していきたい。

講評

 本論文は、少年事件の厳罰化が叫ばれる一方、従来一般には余り注目されてこなかった少年事件の付添人制度を取り上げ、単なる文献的研究にとどまらず、福岡県弁護士会の全件付添人制度の取り組みの実例を調査・追跡しながら、著者自身のNPO団体活動の体験をも織り交ぜて、弁護士付添人に重点が置かれた現状の制度を分析し問題点を検討したものであり、司法的機能を充足する従来型の弁護士付添人制度と並んで教育的福祉的機能をも充足しうる民間付添人の活用を柱とする公的な全件付添人制度の提案を行なっている。
   競り合った実定法の判例分析・解釈論の卒業論文と比べ、論文作法、資料の収集と分析、論旨の展開と説得力および全体的な完成度の点で、本論文がより高い評価となった。
 他方で、審査員からは、全件付添人制度における弁護士と民間人の共存の具体的なあり方や所論の福祉的機能についての検討、また、司法書士の活用を含む国選付添人制度の拡充といった幅広い視野からの検討の必要性などの要望が付されたことを付言しておく。

◇消費情報環境法科 濱田 泰弘(はまだ やすひろ)
『財産開示手続の現状と今後の展望 -権利実現の実効性を高めるための方策-』 《本文を見る》

 平成15年のいわゆる「担保・執行法の改正」において、民事執行法196条以下に新たに「財産開示手続」が創設された。この制度が創設された背景には、金銭債権について勝訴判決を得ても、執行の段階において、債権者が債務者の財産を特定することが困難なため、最終的に権利の実現が図られず、また債務者側においても、故意に自己の保有する財産を隠匿し執行から逃れるという状況があった。  
 このような弊害を打破するために創設された「財産開示手続」であるが、立法段階の構想とは異なり、財産開示義務者の不出頭などのため必ずしも実効性のある制度として機能していない現状が指摘されている。本稿においては、この財産開示制度をより有効に機能させるための改善策につき、機能不全に陥っている原因を明らかにした上で、運用による改善策、および、さらなる立法による改革の両面から検討した。  
 財産開示制度の現状をみると、この制度が機能不全に陥っている原因として、罰則規定の厳格性が乏しいこと、開示すべき財産の基準日が財産開示期日であること、3年間の再施禁止条項が設けられていることがあげられる。これらの規定は、善良な開示義務者のみを念頭に置けば、プライバシー保護の観点から一定の利点も認められるが、現実には悪質な開示義務者が存在することに鑑みると、これらの規定を悪用し財産開示から逃れることが可能となっているという問題が指摘できる。以上の検討を踏まえ、立法論としては、財産開示義務違反に対する罰則の強化、再訴禁止条項の改正などを提言している。  
 また、制度運用面については、裁判所の質問権の行使範囲についての提言を行っている。具体的には、債務者が提出した財産目録から見て、記載された財産に対して執行したとしても債務者の債権額に満たないと予想されるときは、質問権の許容範囲を広げるべきだと考える。  
 以上のように、本稿においては債権者の権利実現の実効性を高めるため、財産開示手続をより厳格な制度とすべきとの立場から、立法による改革、および、制度運用面の改善につき論じたものである。

講評

 本論文は、財産開示制度の不備な点を明らかにした上で、立法と運用の両面からの改善策を検討したものである。全体的にバランスのとれた流れのよい論文であり、論旨の一貫性が明快で、説得力のある内容となっている。法制審議会や国会での議論、諸外国との比較、プライバシー権との関係などが、多面的な検討を充分に消化した上でなされており、さらには、立法的および運用面での提言へと、うまく着地させている点は、非常に見事である。学部学生の卒業論文としての水準を超えて優秀な作品であり、最優秀卒業論文賞に十分値すると思われる。

優秀賞

高 淳一(法律学科)「民事訴訟における違法収集証拠の証拠能力」
岸田 祐香(政治学科)「のぼり旗をめぐる景観問題と商店街  -静岡県三島市の大通り商店街を事例として-」
楠田 紘子(政治学科)「地域と猫の共生をめざして  -行政と地域の協同体制の確立についての一考察-」
久保田 春平(消費情報環境法学科)「外為法における「安全保障条項」(第25条1項ならびに48条1項)の現状と課題」

奨励賞

宇野 昌浩(法律学科)「尖閣諸島の領有権問題とその抜本的解決に関する一考察 -地球的規模の全体主義を視野に入れて-」