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白金法学会

最優秀卒業論文賞

2010年度 白金法学会最優秀卒業論文賞

受賞者には、2011年3月18日の卒業式会場において、白金法学会から表彰状と賞金が授与されました。

◇法律学科 今門 絵里(いまかど えり)
非行少年の保護者の責任と養育支援について―イギリスとの比較法的考察を中心に―』 ≪本文を見る≫

 少年の非行原因は複雑かつ複合的であるが、そのひとつとして、少年の家庭内の問題をあげることができる。実際、法務総合研究所による2001年の調査では、少年院在院者の約70%が何かしらの被虐待経験を有していることが判明している。また、少年の約30%が再犯者であり、再犯防止のためにも、少年だけでなく家庭の再統合をはかることが重要となる。そこで、本論文では、非行少年の保護者に対して、少年の非行の責任を問うとともに、少年法第25条の2にいう「保護者への措置」を徹底し、より充実した養育支援を提供することを提案した。しかし、非行少年の更生に関わる諸施設において保護者会や面接等の支援策を実施しても、同法25条の2に強制力がないために、効率的に措置を行うことができないのがわが国の現状である。  
 このような問題意識から、わが国の保護者への措置を検討するにあたり、比較法的考察として、イギリスの1998年犯罪及び秩序違反法の第8条及び第9条にいう養育命令を検討した。同命令は、非行少年の保護者に対し、親業に関するプログラムを受講することを義務づけており、その結果、同命令によるプログラムを受講した保護者の少年の再犯率は低下し、保護者と少年との関係が改善される等、少年の再犯防止に一定の効果をあげている。  
 以上の検討を踏まえて、私見は、現行少年法第25条の2に強制力をもたせ、家庭に明らかに問題がある、または少年の非行傾向が進んでいる場合については保護者に養育支援策等の措置を受けることを義務づけるべきであるとの結論に至った。養育支援の内容は、少年の更生に関わる諸施設で実施されている保護者会や面接等を徹底させることがまず必要であり、より多くの保護者に確実に養育支援を提供することが重要である。再犯率の高い少年非行問題において、少年の第一監督者である保護者への支援を充実させることがわが国の課題であるといえるだろう。

講評

 本論文は、少年非行と家庭環境の問題に焦点を当て、少年法に規定する「保護者に対する措置」に強制力を持たせることにより、実効的な養育支援を行い、非行少年の家庭の再生を図るべきことを論じており、問題意識が明確にされ、着眼点も優れている。
 イギリスの「養育命令」の制度を紹介しているが、外国語で書かれた統計や報告書について、原典にあたって丁寧に調べ、同制度との比較、考察を行った上で、今後、我が国に求められる法制度設計について私見を展開している点も高く評価できる。
 以上の理由により、最優秀論文賞に決定した。

優秀賞

村井 惇(法律学科)「配偶者控除廃止の是非」
千葉 穣(法律学科)「わが国の民法上の成年年齢引下げによる少年法への影響について―死刑制度との関係を中心に―」
宮原 惇(政治学科)「今日の宗教の形態」
大和田 佳嗣(政治学科)「みんなの党が躍進した要因に関する分析」
矢治雄太(消費情報環境法学科)「クローン技術に関する法整備とその将来」