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「勉強」ではなく「学問」を始めよう

畑 宏樹

1992 年3 月早稲田大学法学部卒業,1994 年3 月上智大学大学院法学研究科博士
前期課程修了,1997 年3 月同大学院博士後期課程満期退学,1997 年4 月上智大
学法学部助手,2000 年4 月福島大学行政社会学部助教授,2004 年4 月明治学院
大学法学部准教授を経て,2009 年4 月より同教授。
担当科目 民事訴訟法1・2,2 年次演習1,民事法入門
専門分野 民事訴訟法,倒産処理法

 新入生の皆さん,ご入学おめでとうございます。これからの大学生活の4 年間を有意義でかつ充実したものとなるよう,心から期待申し上げます。今,新入生の皆さんは,これまでの高校生活ならびに辛かった受験生活を終え,大学のキャンパスへと足を踏み入れて,これまでとは何かと違う雰囲気を味わっていると同時に,期待に胸をふくらませながら,あるいは若干の不安も抱きながらこれからの学生生活について色々と思いをはせていることと思います。本来ならここで,「明治学院大学って,○○○な大学だよ」とか「×××といった特徴があるんだよ」といったことを,教員の立場からアドバイスするのもいいのでしょうが,折角新入生の皆さんにメッセージを送る機会がこのような形で与えられているわけですから,単なる学校紹介ではなく,大学生活―より言うならば大学での学び方―について,私自身の約30年前の経験に照らしながら,いくばくかのアドバイスをしてみようかと思います。
 私が大学に入学した当初は,辛かった受験生活から開放された喜びとともに,大学が持っている非常に自由な雰囲気から,いやおうもなく浮かれまくっていましたが,実際に講義が始まって行くにつれ,そういった浮かれ気分が瞬く間に消し飛んでいったことを思い出します。私が学部時代を過ごした大学では,一年生からいくつかの専門講義科目が必修科目として既に配置されていて,当時は「民法総則」と「刑法総論」があったと記憶しておりますが,特に「民法総則」の講義において,入学間もなく抱いた「甘さ」が完全に摘み取られました。その授業においては,教科書として四宮和夫先生の『民法総則』が指定されていたのですが,このテキストの難解なこと難解なこと…(とはいえ非常に名著ですので法学部に所属している間には皆さんも一度は是非読んでみて下さい(四宮和夫=能見善久『民法総則[第8 版]』))。まず,それまでに見知らない言葉(いわゆる法律用語)が盛りだくさんなことに加え,文章の難解さ等に圧倒されながら,それでも一生懸命に読んで授業にのぞんでいったことを思い出します。高校時代までに使っていた教科書や参考書とは全く異なる「書物」にいきなり触れたことで,こんなものが当たり前のように授業の教科書として用いられる「大学」という所の恐ろしさを痛切に感じた次第です。
 このような感じで試行錯誤を繰り返しながらも,漠然とではありますが,「法律学ってこんなものか」という実感が得られるようになり,生意気にも大学の講義で教わる以外のことについても関心が沸くようになると,他の定評のある「民法総則」の基本書も読んでみたくなり色々と読み進めていったりもしたものですが,そこで次なる疑問に遭遇するようになりました。それは,「何故一つの法解釈上における問題点(いわゆる論点と呼ばれるものですが)において,色々な異なる考え方(学説)がうまれてくるのだろう」ということ,あるいは「ある論点において,大審院や最高裁判所の裁判例が存在するのに,何故それに対して賛成・反対の立場といったものがあり得るのだろうか」といったものでした。一つの法律上の問題点を巡る法解釈一つをとっても,そこには裁判所の考え方もあれば,A 先生が唱える考え方,B 先生の唱える考え方と実に様々な見解の対立があるんだなぁ,と感ずると同時に(当時の私のレベルではどの見解がより妥当かという判断にまでは至れませんでしたが…),大学の講義で先生から教わることも唯一絶対の考え方ではなく,それは一つの考え方(一つの学説)に過ぎない,換言するならば,法律学の学習というものには数学などとは異なって正しい答えというものが存在しない(同時に間違った答えというものも存在しない)ということに気付くようになっていったのでした。先生の言うことをしっかり聞き,板書はきれいにノートにとり,それらを試験に備えてしっかりと覚えるといった,それまでの高校時代までのいわゆる「勉強」とは異なり,大学というところでは,先生から受ける講義を手がかりに,ある問題点について自分で色々と調べそこで得られた知識(判例や諸学説)をしっかりと整理し,最終的にはいかに自分の頭で考えるかという作業が必要とされる所なのだ,ということを次第に意識するようになっていったことが思い出されます。
 皆さんも大学に入学してきて様々な面において,それまでとは違う「自由な」雰囲気を肌で感じているとは思いますが,この「自由」は遊びの面だけでなく是非とも勉学の面においてもいかんなく発揮して頂きたいと思います。大学というところは,「勉強」をする場ではなく「学問」をする場である,ということをしっかりと認識してください。そして,私の講義にのぞむにあたっては,講義で私がしゃべる言葉を鵜呑みにするのではなく,是非とも批判的精神をもってのぞんでもらいたいと思います。