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あなたは,どんな人生を生きたいですか?

菅 正広

東京大学経済学部卒,英ケンブリッジ大学修士(政治経済学)
担当科目:社会起業論、世界経済の基礎、財政金融政策論、国際金融の制度と政策、演習・卒業論文、研究指導等
専攻分野:国際金融論、国際開発論、財政金融政策論、マイクロファイナンス、ソーシャルビジネス

 新入生のみなさん,入学おめでとうございます。みなさんは,今,大学生活のスタート・ラインという,新しい人生のステージに立っています。
 私自身の大学生時代を振り返ってみると,「若者には無限の可能性がある」などと人生の先達たちから言われ,本当かなと思ったり,そうかもしれないなあと思ったり,希望と不安の入り混じった青春時代だったように思います。可能性は無限でも,時間が不可逆である以上,ある時点であることを選ぶということは他の選択肢を捨てることになり,機会費用が生じるのではないかと思う一方,自分の想いが十分に強ければ,選択しなかったこともどこかで回復され,いずれ自分が思ったようになるのではないかと信じようとしたりと,まさに試行錯誤でした。
 また,人並みに「人生とは何ぞや」などと哲学めいたことを友人や先輩などと議論したりもしました。しかし,結局,私の場合,「人生とは何ぞや」という問いに自分が納得のいく答えは得られず,人生のいくつかの分岐点で,その時々にとりあえずの結論めいたもので割り切って,エイヤッとばかりに道を選択して生きてきたように思います。
 みなさんには,これから大学4 年間という,贅沢な時間があります。自分は,どんな人生を生きたいのか,自分が本当にやりたいことは何か,考え抜いてもらいたいと思います。それを考えることによって,みなさんがよりよい人生を送ることにつながると信じているからです。みなさんがこのことを考えるに当たって,参考になるのではないかと思うことを以下いくつか述べますので,心に留めてもらえれば嬉しく思います。
1.後悔のない人生を送る
 オーストラリアの看護師Bronnie Ware さんによれば,死を間近に控えた人が,それまでの人生で最も多く後悔することは,「自分自身に忠実に生きればよかった」―他人に望まれるようにではなく,自分の望む人生を送ればよかったということだそうです。「もっと自分の気持ちを表す勇気を持てばよかった」―世間でうまくやっていくために自分の感情を殺していた結果,可もなく不可もない存在で終わってしまうという無念や,「自分をもっと幸せにしてあげればよかった」―幸福は自分で選ぶものだと気付かず,変化を無意識に恐れ,選択を避けていた人生に気付く後悔も多いそうです。みなさんはどう思いますか? 自分の人生の最期をイメージしてそこから振り返り,明日からの自分の人生を考えてみる。やってみる価値のある思考実験だとは思いませんか?
2.考え抜き,そして行動する
 自分がどんな人生を生きたいのか,徹底的に考え抜く。正解はありません。とことん考え抜くことが肝要です。しかし,考えてばかりではいけない。考え抜いたら行動する。その覚悟を決めることです。
 行動を起こしてやってみる。そして,一定の時間が経ったら,その行動の結果を見つめ,反省すべき点を修正するのです。いわゆるPDCA サイクル(Plan( 計画)→ Do (実行)→ Check (評価)→ Act (改善))を実践することです。このサイクルを1 周したら,最後のAct を次のPDCA サイクルにつなげ,螺旋を描くように1 周ごとに各段階のレベルを向上させていく努力をするのです。
3.すべて自分の運命を受け入れる
 上記2 で述べたこととも関係しますが,自分で考え,行動する,そして行動したら,その自分の行動に責任を負う覚悟が必要です。すべて自分の運命を受け入れる,と言い換えてもよいかもしれません。というのは,誰から何を言われても,結局,人は本当に自分によいと思うことしか選択しないからです。ほかでもない,あなた自身がその選択肢を選びとるのです。何かを選びとらなければ,人生は前に進みません。
 そして,その時に問題が起きるのは当たり前のことなのです。これからの人生,次々に問題が起きるでしょう。社会はいろいろな人で構成されているのですから,いつも何か問題が起きるものなのです。これを他人のせいにしても問題は解決しません。しかし,何か問題が起きると「会社が悪い」,「親が悪い」,「あいつが悪い」と犯人探しをすることに傾きがちです。そして,結局,「誰かが何とかしてくれる」と,何もあるはずのない自分の外側にあるものに期待をし,他力本願になってしまう。もちろん,責任の所在などを議論することも重要ですが,それに終始すると変化の激しい環境に対して変化についていくだけの人間になってしまいます。要注意ですね。
4.ありのままの自分を承認する
 上記3 で述べたことは,ありのままの自分を受け入れるということでもあります。ありのままの自分に対峙し,自分を許して承認する。他人の価値観や評価に振り回されない自分を受け入れる。自分は自分のままで良いんだよと。見せかけの自分を演じても持続可能ではなく,どこかで破綻するものです。
5. やりたいことが見つからなければ,まずやらなければならないことをやってみる
 やりたいことが見つからないのは,本当に取り組むべき課題から目をそらしていることが原因かもしれません。「今,自分がどうしてもやらなければならないこと」を直視し,それを「やる」覚悟をする。そもそも人がやりたいことを見つけるには,「しなければならないこと→できること→やりたいこと」という3 段階のステップが必要だと言われます。まずは,「やらなければならないこと,やれること」をやっていく。すると次第に「できること」が増え,その先に初めて「やりたいこと」が見えてくることがあるようです。
6.できることとできないことの見極め
 さっさと諦めてはもったいないことがあるのも事実ですが,「やればできる」という万能感が私たちを苦しめるのもまた一方の事実です。本当はできることをできないと思って諦めることも,本当はできないことをいつかはできるといつまでも思い込むことも,人生の悲劇につながりかねません。その線引きやバランスが難しいのですが,前にも述べたように,とにかく行動を起こしてやってみる。その上で飾らない自分の内面の心の声に耳を澄ます。それに従うしかありません。諦めるべきことはきっぱり諦める。大変辛いことですが,諦めた瞬間から気が楽になり,次なる一手が打てるようになります。他方,やると決めたことは石にかじりついてでもやりきる。私たちは,覚悟を決めてこれを自分自身の責任で選びとっていくしかないのです。
7.自分がやりたいことと生業の一致
 自分が本当にやりたいことから得られる収入は,もしかしたらあまり多くないかもしれません。しかし,自分が本当にやりたいことを生業にできる人は幸せだと思います。そして,やはり簡単なことではありませんが,そこに自己実現と社会との接点を見出せたら,こんな素晴らしいことはありません。
 このことは,今の瞬間瞬間を大切に生きることにも通じることです。自分がやりたいことをしているとき,私たちは時が経つのも忘れてしまいます。ワクワクするからです。みなさんも経験がありませんか? その時,昨日を忘れ,今日を喜び,そして明日を楽しむ人生を送ることができるでしょう。
8.自他の価値観を尊重
 あなたが最も大切にしたい価値観は何ですか? お金ですか? 生の享楽ですか? それとも,権力? 名声や名誉かもしれませんね。しかし,これまで述べたように,それらだけを求め続ける人生では深く持続する幸せな人生にはならないかもしれません。他人や社会とのつながり,信頼関係が大事な価値と考える人もいるでしょうし,マズローの言う,超自我や利他の心に価値を置く人もいるでしょう。欲望は無限ですから欲望をあえて殺し,「足るを知る」ことも重要かもしれません。そう,世界には実に多様な価値観があります。そのような多様な価値観を認め合うことが大事なのです。ダイバーシティですね。みんな違うからこそ価値がある。それぞれの生き方自体に選択肢があると認められる社会,誰をも
排除しない社会はレジリアントで強い社会だと私は思います。
 他人の価値観を傍らに置いて,自分の価値観を見つめ直してみる。そして,時々,世間で普通と思われている評価軸や視点を変えて,自分の人生や社会を見つめ直してみる。きっと新しい気付きが生まれることと思います。その時,自分の価値観と同様に,他の価値観も尊重することがダイバーシティにつながるのだと思います。
 以上,これらのことは,私が自分自身に言い聞かせていることでもあります。みなさんも自分がどんな人生を生きたいか,本当にやりたいことは何か,大学時代に自分探しの旅を始めてみませんか? 自分には無限の可能性があると信じて……。
 日本には,そして世界には素晴らしい人がたくさんいます。明治学院大学でもきっと素晴らしい友人や先生などとのたくさんの出会いが待っていると思います。たくさん本を読み,たくさんものを考え,そして,たくさん人と出会って,どうか素晴らしい大学時代を過ごされるよう,みなさんのご健闘を心から祈ります。