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コンピュータは人を超えると言うけれど

櫻井 成一朗

明治学院大学ご入学おめでとうございます。
 私の専門は情報処理,その中でも人工知能(AI)と呼ばれる分野です。AI とは人間のような高度な知能をコンピュータに実現しようとする学問です。ですから,当然コンピュータの専門家でもあります。私の担当する授業は「情報と法」「情報と職業」「法情報処理演習1・2」「情報処理4」です。情報と法では,現代の情報社会における情報と法の関わりについて学びます。情報と職業では,様々な職業や業種の内容に触れながら,情報化と社会について社会情報学の観点から学びます。法情報処理演習1・2では,法律を学ぶのに不可欠な情報検索技術について学ぶとともに,プレゼンテーション技術を学びます。情報処理4では,現在の最先端のソフトウェア技術に触れながら,情報処理とは何かについて学びます。
 今,人工知能(AI)は第三次ブームを迎えて,国や企業の投資が積極的に行われ,国際競争が激しさを増しています。現在のAIは,ディープラーニングと呼ばれる機械学習技術を中心にして人間を超えるプログラムが作成されるようになってきました。スマホに搭載された音声認識プログラムでは,話しかければコンピュータが応答してくれます。家庭の中にも,AIスピーカーと呼ばれる機器が導入されるようになり,キーボード無しで情報にアクセスできるようになりました。急速なAI技術の進歩により,囲碁や将棋をはじめとして多くのゲームでは,もはや人間はコンピュータに勝てなくなりました。また画像による医療診断では専門家を凌ぐAIによる診断が可能になってきました。このようにAIが進歩を続けていけば,コンピュータが人間を完全に追い抜く日が来るのではないかといわれています。コンピュータが人間を超越することを「(テクノロジカル)シンギュラリティ」と呼びます。カーツワイルはシンギュラリティが2045 年に起きるという主張をしていますが,2045 年に実際にシンギュラリティが起きるのかどうかは現在のところまだ誰にもわかりません。でも,それまでに機械が人間の雇用機会の多くを奪うであろうことは想像に難くありません。現在は,ホワイトカラーの仕事が奪われ始めているのです。皆さんが大学を卒業すると,機械との競争が待ち受けているわけです。それでは,皆さんの将来は真っ暗なのでしょうか。
 皆さんの将来が真っ暗になるか,どうかは,実はこれからの4年間で決まります。
皆さんがこれからの4年間を最大限に活用して,自らの能力を最大限に開花させれば,社会に出てからも成長を続けることができ,バラ色の未来が待つことでしょう。従来の日本社会は横並び社会でしたから,才能や能力に秀でていたとしても正当に評価されないことが少なくありませんでした。これからは才能や能力に秀でた人のみが勝ち残って行くことになります。今この時点では,自らの才能や能力を最大限に引き出すことはできていないでしょうが,皆さん自身には,自らも知らない,まだまだたくさんの才能や能力が埋もれたままなのです。埋もれた才能や能力を発掘するには,授業の予習や復習を行って,講義を聴講するだけでは十分ではありません。これまでのように勉強すれば,一定の知識を修めることはできるでしょう。でも,今の企業が皆さんに求めているのは,単なる知識の集積ではありません。情報通信技術の進展と普及によって,企業の定型業務はコンピュータで処理されるようになり,企業における人間の果たすべき役割が劇的に変化しました。マニュアル化された単純業務も引き続き必要とはされますが,単純業務をする人材として大学卒の資格が求められているわけではありません。企業が求めているのは,業務の中に隠れた問題を自ら発見し,解決していく能力です。すなわち,大学生である皆さんには,知識よりも知恵の獲得こそが求められているのです。授業によって知識の習得はできるでしょうが,単なる知識の習得だけでは知恵を獲得できません。知恵を獲得するには,問題に遭遇し,自ら徹底的に考え,悩み,そして自ら問題解決していくことが必要なのです。だからと言って,成長途上にある皆さんは自力では解決できないことの方が多いでしょう。その場合には,友達や先生の力を借りて,問題解決の術を学んで行けばよいのです。もちろん,大学の授業に出席するだけの生活では,問題に遭遇することは少ないでしょうから,自ら積極的に社会に関与することで,問題に遭遇する機会を増やす必要もあるでしょう。ボランティア活動をするのも良いでしょうし,サークル活動に参加しても,あるいは他大学の人達との交流の場に参加しても良いでしょう。海外へ飛び出すことも一つの方法でしょう。人間は社会の中でしか生きられず,社会を共に作っていくのが仲間や友達です。ですから,様々な活動を通して仲間や友達をたくさん作って下さい。そして,社会を制御するのは法律です。法律を学ぶ機会を与えられた皆さんには,「より良い社会を作る」という大きな問題が課せられています。この問題について考え,悩むことは,皆さんのこれからの長い人生の大きな糧となっていくと思います。その意味でも,大学の四年間は皆さんの人生の中で最も貴重な四年間であると言えます。ぜひ,皆さんにとって有意義な四年間を送るように心がけて下さい。
 最後に,私が授業で直接ご一緒できる方は限られていますから,私と話をしたい方は遠慮なく私の部屋を訪ねて下さい。