明治学院大学 法学部 公式サイト

search

信じて疑え! そして絶対君主との知的な対決を!

鍛冶 智也

皆さん,入学おめでとうございます。これから始まる大学4年間の生活(それ以上お付き合いすることとなる人もいるでしょうが)は,これまでの中学,高校,あるいは予備校での生活とは根本的に異なるものとなるでしょう。大学というところは,これまでとは違った意味で“ たいへん” で“ 楽しい” ところなのです。
 これまでの昔さんは,学校の教師が語ることに対しては,そのまま素直に受け入れていたか,全く無視していたか,無条件に反抗していたか,まあどれかだったと思います。授業などで教師を通じて「教え」られる知識・情報を,そのままのかたちでノートに書き込み,記憶してきたと思います。どれだけ「たくさん」の情報を「正確」に記億するかが,皆さんの「能力」をはかる基準になっていたはずです。しかし,大学ではそうした「能力」は,比較的小さな役割しか果たしません。これまでの努力は,決して無駄にはなりませんが,これまでのやり方だけでは全くダメなことがすぐにわかると思います。
 大学での勉学においては,蓄積してきた知識や講義等で得られる情報を自分なりに整理していくなかで,「自分なりのものの見方」というものを体得し,形成・成長させていかなければなりません。そして,かってな思い込みではなく,正確な知識を基盤にしながらも,オリジナリティ溢れるユニークな「あなたの意見」をもち,かつそれを言葉にして表現しなければなりません。これを言い換えると,「批判的な精神」を常にもってさまざまな事象に接し,主体的に問いかけることにほかなりません。こうしたプロセスは,一方で教師を信頼し,既存のあらゆるものに対して,誠実に接し,素直に知識を吸収することであると同時に,もう一方で,既存の森羅万象,そして教師自身に対しても疑問を投げかけることでもあるのです。これは一見矛盾に満ちています。つまり,そこにある情報が真実であり,それをそのまま受け入れろというのなら,どこに疑問をはさむ余地があるのだとか,全てに批判せよというのであれば,他人の知識や意見である知識なんて習得する必要がないではないか,というものです。これは私たちの多くが誤って陥ってしまう落とし穴です。知識に対して誠実に接する「信頼の精神」と,それに疑問を投げかける「批判の精神」は,両立するのです。いや,両立しなければ意味はないのです。「信頼の精神」は「批判の精神」がなければ,単に主体性がない無自覚にすぎないのですし,「信頼の精神」のない「批判の精神」は独善に
すぎません。この二つの精神を獲得し,成長させることで,真の理解が生まれるのです。これこそ大学時代で行う最も重要なことなのです。
 さて,こうしたチャレンジは,すぐにやってきます。それは講義を通じての知識との対決です。そしてその知識の伝達者は教師です。厄介なことに,私自身を含め教師というものは例外なく「絶対君主」です。優しく親切な教師もいれば,もとより厳しい教師もいますが,専門分野において皆さんよりはるかに豊富な知識を有し,それを駆使する能力にも長け,そして「単位」の生死を左右する権力を握る絶対君主です。この君主,知識や教育能力は一定の水準を保っていることでしょうが,多かれ少なかれ独断と偏見,思い込みと偏狭,傲慢と怠惰に満ち満ちているのです。ほっておくと,いつのまにか暴君になってしまいます。皆さんは,「信頼の精神」をもって君主の知恵を獲得しなければならないだけでなく,君主の語る内容が充分であり,理解できるかどうか,語る方法が適切であるかどうかなど,「批判の精神」をもって君主に対決しなければならないのです。そのためには,単に「単位を取れればいいや」とか「優の楽勝コースだ」といったことにしか関心を示さず,君主の統治のあり方に無関心であってはなりません。自覚して注意深くみれば,高い税金(授業料)の割にはサービスが悪いといった不利益に目覚める筈です。君主に対する表面的な従順や単なる不平・不満では,決して真の理解をもたらしません。この解決のためには,根本的な改革が必要になってきますし,時には革命が望まれるのです。革命といっても,絶対君主をその玉座から引きずり下ろすのではなく,君主を真の指導者たるべく一致団結して監視するという市民革命を起こすのです。革命後のデモクラティックな教室では,かつての君主は,皆さんの真なる知的欲求に応えながらも,しんどいと感じるような課題も課し,皆さんの隠れた能力を引き出す「我々のリーダー」に変わっていることをみるでしょう。どうやら,政治学科の学生は,学問対象として“ 政治” を学ぶだけでなく,学園生活そのものが“ 政治” の場となっているようです。さてこの私は,「地方政府論」「都市行政論」「都政研究」「公共と市民」「政府と企業」などという王国で君主としての地位を享受しておりますが,市民革命の準備に際しては,「お忍び」で下野し,密かに革命に協力したいと思っております。手段や方法について改革のための「秘伝」をいつでも提供いたしますので,キャンパスであったら気軽に声をかけてください。楽しく,充実したキャンパス・ライフを一緒に送りましょう。

 《主要著書・共著》
  『 大都市問題への挑戦―東京とニューヨーク』(共著)日本評論社,1992 年
  『 ニューヨーク市議会―制度と実際』東京都議会議会局,1993 年
  『 大都市行政の改革と理念―その歴史的展開』(共著)日本評論社,1993 年
  『 広域行政と地方分権』(共著)自治体研究社,1993 年
  『 今,アメリカは』(共著)南雲堂,1995 年
  『21 世紀を読み解く政治学』(共著)日本経済評論社,2000 年
  『分権改革の新展開に向けて』(共著)日本評論社,2002 年
  『スマート・グロース政策に関する研究』(共著)東京市政調査会,2005 年
  『初めての政治学』(共著)風行社,2011 年
  『政治学の扉』(共著)風行社,2015 年