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刑法を語ろう

長井 長信

法学部に入学された皆さん,ご入学おめでとうございます。ようやく受験勉強から解放されて,ホッと一息,あるいは,解放感一杯で「さぁ,これから遊ぶぞぉ!」と意気込んでいる(?)人も多いのではないでしょうか。でも,短い学生生活,「学問」に触れることのできる時間は「束の間」です。遊ぶことは,大学を卒業してからでも結構機会があるでしょうが,学問となると,一旦大学を離れるとそう身近なものではなくなります(もちろん,仕事の関係では一生「勉強」は続くことでしょうが…)。自分の関心に沿って自由に学問を楽しむことができるのは,大学をおいて他にはないでしょう。
 私が担当する「刑法」では「切った張った」の身近な「犯罪」が議論の中心ですが,昨今では環境汚染やクローン人間産生も犯罪化されており,グローバル化する現代社会において国家刑罰権はいかにあるべきか,があらためて問われている時代です。私の研究テーマも当初の「錯誤論」から「医事刑法」や「経済刑法」の分野に広がってきています。
 刑法の授業では,「刑法」と題する法律(刑法典)に書かれた諸規定が,実際の裁判でどのように解釈・運用されているか(判例),あるいは,それに対して研究者がどのような批判を加えているか(学説)を学習します。そこでは,犯罪を行った「生身の人間」としての「犯罪者」は具体的なイメージとして立ち現れてはこないように感じられるかもしれません。しかし,いうまでもなく「犯罪」は人の仕業です。国家は有罪と宣告された生身の人間である「犯罪者」に「刑罰」を科すのです。皆さんがこれから学習する判例の中にもつねに「生身の人間」がいることを忘れないでください。刑法(とくに刑法総論)は「抽象的」でよく分からない,学説が多くて大変だ,などといった「悲鳴」をよく耳にしますが,刑法学における議論は,「生身の人間」に対する国家刑罰権の行使をいかに適正・合理的なものとするか,という観点から展開されていることを忘れないでください。
 しかし,いざ「刑法」の勉強を始めてみると,何だかつまらない,刑法がうまく掴めない,などと感じられるかもしれません。そんな時は無理をせず,一度は教科書を離れ,犯罪者や犯罪原因を探求する「犯罪心理学」や「刑事政策」などに目を向けてみるのもよいでしょう。あるいは,犯罪や犯罪者に関する小説やノンフィクション,ドキュメンタリーに遊んでみるのもよいでしょう。そこでは,犯罪に苦悩する「人」や「社会」(犯罪者だけでなく,犯罪被害者や地域社会も含めた様々な人間)の営みが見えてくるでしょう。楽しく学ぶには,何よりも「犯罪」に関心を持てることが大事です。それができれば,犯罪についてもっともっと勉強したくなるでしょう。そうすれば,刑法についてもきっと何かを語りたくなるはずです。