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境界のない生き方のすすめ

高橋 順子

担当科目 情報処理,情報科学,コンピュータリテラシー,演習
専攻分野 天文化学,計算科学

 私は,法学部所属ではありますが,理学部出身の自然科学者です。専門分野は『天文化学』という,天文学と化学の境界領域にある分野で,宇宙空間に存在する星間分子や塵(スターダスト)の構造や反応過程を調べることにより宇宙における物質の進化と輪廻の機構を解明していく研究分野です。そして,その研究の手法として用いているのが『計算科学』です。コンピュータを用いたさまざまな数値シミュレーションを行うことによって,宇宙の物質に関わる謎を解明しようとしています。
 天文学は,一般に,地球,星,銀河,ビッグバン,というふうに,人間と比べてずっと大きなスケールのものを扱う分野です。一方,化学の方は,主として,原子や分子という,人間よりはるかに小さなスケールのものを扱います。一見,これら二つの研究分野は全く異なるように映ります。ところが,宇宙全体を見れば,原子や分子は星や銀河で作られて,宇宙空間中でより複雑な物質として進化していった後,それらがやがて次の世代の星や銀河を造る原料となっていきます。つまり,二つの非常に異なるスケールのものが,もちつもたれつの関係を保ちながら,宇宙全体の中で調和しています。『天文化学』は,そういったスケールの境界を乗り越えて宇宙全体を捉えようとする学問です。
 日本の大学には,天文学(宇宙物理学)や化学という専攻分野はあっても,残念ながら『天文化学』という専攻分野はありません。私自身は,大学・大学院時代は化学を専攻していましたが,『天文化学』という分野に強く惹きつけられるようになって,化学分野で博士号を取った後に天文学を独学し,それらの知識を融合させることにより『天文化学』分野の研究に取り組むようになりました。普通はどちらか片方の分野に収まる研究をすることに一生を捧げる研究者が多いことでしょう。しかし,私は,分野の境界を越えた広い視野を持ちながら,自分の興味の赴くままに研究を進めていきたいと思っています。
 さて,この大学に入学された皆さんは『文系』であるわけですが,自分は『文系』だから,『理系』の科目は(卒業単位を取るため以外は)必要ない,などと考えていらっしゃるということはないでしょうね?自然科学系の科目―数学,物理学,化学,生物学など―は,日常生活や社会生活において知っていれば必ず役立つ知識を与えてくれるばかりでなく,思考方法の基本を鍛えてくれます。また,情報科学の知識とコンピュータを使った情報処理のスキルは,今後どんな分野の勉強をするにしろ,就職するにしろ,計り知れないパワーを与えてくれることになるでしょう。『文系』か『理系』かの境界を設けることなく,どんな科
目でも将来自分に役立つものと考えて,大学では積極的にいろんな科目を学んでいただければと願っています。
 この大学には女子学生の方が大勢いらっしゃいますので,女性の先輩としても一言。私が属している自然科学系の分野では,未だに女性が非常に少数派です。そのため,「女性なのに,なぜ理系に進むのか?」というような質問をする人が,これまでに男性ばかりか女性にも大勢いました。現在の世の中では,まだまだそういった性別による『境界』意識がいろいろな所に残っているかもしれません。しかし,そんなことにはお構いなく,女性の多くが自分のやりたい分野へどんどん進み,自ら望んで就いた職業を生き生きとこなしていくことで,そのような『境界』は昔話となる時代が来るだろうと思うのです。皆さんには是非とも頑張っていただきたいと,心から願っています。