明治学院大学 法学部 公式サイト

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明治学院大学法学部へ入学したA さんへの手紙

伊室 亜希子

担当科目 物権法,民法総則,演習
専攻分野 民法,信託法

 明治学院大学法学部への入学おめでとうございます。苦しい受験生活から解放されて,ほっと一息ついておられるところだと思います。大学は,小中高校とはかなり違うところだということは,すでにお聞きになっていることでしょうし,これから大学生活を送る中で,自分自身で実感されることと思います。これまであなたは,小学校の次は,中学校,中学校の次は高校,高校の次は大学と,まわりの友達とだいたい同じコースを歩んできました。それが大学を卒業すると,皆の進む道がさまざまで,当然誰の真似をすることもできません。あなたはまだ将来何をしたいか分からないと言っていましたが,自分で将来どのような道に進むかを,この4 年間で決定しなくてはいけないのです。そのためのいろいろな経験をつむ時間として考えると,4 年という期間はとても短いものです。
 適当に授業にでて,サークル活動をして,アルバイトをしてまわりの友達と同じように過ごしてきたつもりが,ある日突然,友達から「私,裁判所事務官の試験を受けようと思ってるんだ」とか「法科大学院に進んで,弁護士になるよ」とか「○○生保が第一志望で会社説明会に行ってきた」と聞かされ,急にあせる人がいます。特別やりたいことも何もない,何か仕事につかないといけないんだろうけど,どうしよう,という具合です。
 こうならないためにどうしたらよいか。道はひとつではありませんので,私の言うことを必ずしも聞く必要はありませんが,参考になればと思って筆をとりました。
 それは,1 年生の間は講義にきちんと出席することです。そのメリットはいくつかあります。語学,体育といった出席を重視する講義の単位を落とさずとれる。また,大学の講義の受け方を体得する。専門の講義では,高校までと違って,間違いのないとされる教科書を使い,先生が親切に板書してくれて,それを自分のノートに書き写して勉強するという方法はとれません。大学では,分厚い本が教科書と指定されますが,その教科書はあまり使用されることはなく,先生は黒板に思いついたように汚い字で走り書きをし,90 分難しい専門用語を使って,しゃべりつづけます。どうノートをとったらいいのか,どう勉強していいのか,最初は途方にくれます。ノートのとり方,講義の要点の捉え方は,しばらく自分でもがき苦しみながら,体得していくしかありません。慣れるまでは,先生のおっしゃったことを全部ノートにとるしかありません。慣れてくると,事前に教科書等で専門用語を把握しておいて,今日の講義はここを重点的に聞こうと,メリハリをつけて講義に望み,ノートもポイントを押さえてとることができるようになります。板書を写すことがノートをとるということではないのです。また,そもそも講義に出てもちんぷんかんぷんなら,教科書,参考書で勉強して,先生にも質問して,講義が分かるレベルまで自分を引き上げないといけません。
 悪い先輩から,この講義は楽勝だから出なくても過去問を見ておけば試験は通ると言われ,講義の受け方も分からないうちから,また,一度も大学の試験を受けたこともないのに,先輩の言葉を真に受けて,講義にもろくに出ず,痛い目にあう学生を何人も見てきました。大学は,そこまで甘くはないのです。その先輩は,あなたより非常に優秀で,本当に試験前にちょっと勉強しただけで,Aをとれたかもしれませんし,あるいは,たくさん単位を落としていて,たまたまその講義の試験問題はヤマがあたって,ぎりぎりCをもらっているかもしれないわけです。どちらにせよ,あなたと先輩は別の人間なので,どれくらい,どのように勉強すればいいかというのは,まったく違うわけです。
 それから,講義に出て,いつも前の方の同じ席に座っていると,自然と友達もできます。最近は友達ができないという相談を受けることがあるのですが,その答えにもなります。サークルや部に入っておけば,普通は心配ないのですが,サークルは4 月のはじめにしか募集を行わないところが多いので,入ろうか迷っているうちに,日が経ってしまい,入りそびれる学生さんが結構います。その場合には,講義に出なさいとアドバイスしています。
 そして,法律に直接関係した職業につこうかと少しでも考えているなら,講義にでることは,法律が自分に向いているかどうかを知るために必要です。
 1 年間まじめに勉強して,コツをつかめば,どれくらい勉強すれば,単位を取れるのかが分かります。つまり,どれくらいのエネルギーを単位取得のために使えばよいかがわかり,残りのエネルギーを他のことに振り向けることができます。要領のいいあなたなら,半年でそれが分かるかもしれません。
 あなたは,将来,何になりたいか決まっていないと言っていましたが,法学部に入学してしまった段階で,あなたの進む道は,ある程度方向性が定められています。医者になりたい,エンジニアになりたいと思っても法学部にいてはなれません。法学部からは,特に法律学を念頭におくと,ロースクールに進学するか,司法書士,公務員といった法律に関係した職業につくか,金融機関,メーカー等の会社(必ずしも法律には関係ない)に就職するかということになります。
 法律に関係する職業につきたいという明確な意思を持っている場合,あるいは勉強したら結構向いているという場合は,残りのエネルギーをしっかり勉強に向けてください。将来の「パンの種」になるわけですから,当然です。
 法律を勉強するのはどうも苦手だと思った場合も,方向転換してお医者さんになるというまでの決意がない場合は,法律を嫌いでも苦手でも単位をとって卒業しないといけません。最低限は法律の勉強をして,残りのエネルギーを,法律以外の自分が少しでも興味を持てる分野を探求することに使ってください。
 ただし,例えば金融機関に勤めたいという意思があるのなら,民法や商法の知識はやはり必要になります。嫌いでも,やらなくてはいけません。
 最近は「自分探し」がはやりのようですが,「本当の自分」というものは存在しないと私は思っています。4 年間努力しようが,しまいが,ある時点で決断を迫られます。その決断は,その時点でもっている実力を基にしかできず,それが現実のあなたであって,それ以上でもそれ以下でもありません。ですが,努力した先には,かならずチャンスが訪れます。チャンスが来たときに,それをいつでもつかめるように準備を怠らないでください。その小さな一歩が講義にでることだと私は思います。