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「権利=法」をめぐる「闘い」について学ぶ

高橋 文彦

1956 年8 月12 日,埼玉県生まれ
担当科目 法学の基礎,グローバル基礎演習1,Introduction to Japanese Law,法哲学1,法哲学2,法思想史1,演習
研究分野 法哲学,比較法思想

 新入生の皆さん,ご入学おめでとうございます。
 皆さんはこの4月から明治学院大学法学部の学生になりました。でも,「法学部で何を勉強するのですか」と尋ねられたとき,明確に答えられる人は意外と少ないのではないでしょうか。実を言うと,私もそうでした。「法律を知っておいて損はない」「法学部は偏差値も高く,世間体も良い」「将来的にも潰しがきく」などという極めていい加減な動機で,私は法学部に入りました。つまり,法律学について具体的なイメージがないまま,法学部を選んだのですが,そのせいで,後でひどい苦労をしました。やはり,大学生活を始めるに当たって,最初に大局的な見通しをもつことが重要です。
 はっきり言っておくと,法律学の勉強は決して易しくありません。単に勉強すべき法律の数が多く,時間がかかるだけではなく,そこで用いられる「法的な考え方」を身につけることが難しいのです。法律学はいわば「大人の学問」ですから,若い皆さんには,何のために法律家がこのような抽象的な概念を用いて細かい議論しているのか理解できず,途方に暮れることもあるかもしれません。そんなときは,ひとつ深呼吸をして,大所高所から法と社会を眺めてみることをお薦めします。
 そもそも何のために法はあるのでしょうか。このことが分かれば,法を学ぶ意味や目的も多少は見えてくるはずです。ドイツの著名な法学者イェーリングは,「権利=法(レヒト)の目標は平和であり,そのための手段は闘争である」と述べています。しかし,法の目標が平和であるのはよいとして,その手段が闘争だというのは何やら物騒ですね。もし本当ならば,法学部は闘争手段を学ぶ物騒な学部ということになります。果たしてそうなのでしょうか。
 人間社会では争いごとが絶えません。人生は毎日がいわば「闘い」ですから,つねに摩擦が生じます。世の中には,借りた金を返さない人がいます。暴力をふるう人もいます。暴力が過激化すると,血が流れます。このとき,被害者が加害者に実力で復讐をすると,さらに暴力沙汰はエスカレートします。これは避けたい。極論すれば,このような血の流れる暴力を避けるために,法(詳しく言えば,「行為規範としての法」)はあります。
 しかし,法があっても,金を借りた人はそれを返さないかもしれない。法があっても,やはり他人を傷つける人が出てきます。そのような場合,平和を取り戻すために裁判が必要になります。裁判はもうこれ以上血を流さないための更なる「闘争」です。そして,この裁判の基準を定めているのもまた法(詳しく言えば,「裁判規範としての法」)なのです。
 皆さんは民事訴訟法の授業を受けると,文字通り「攻撃」や「防御」などいう言葉が出てくるので,びっくりするかもしれません。民事裁判は原告と被告との闘い,刑事裁判は検察官と被告人(その弁護人)との闘いです。そして,逆説的に聞こえるかもしれませんが,この闘いの目的が「平和」であり,「正義」なのです。もし皆さん自身がこの知的な闘いに参加し,法的知識によって正義に基づく平和な社会を実現しようという志があるならば,ぜひとも法曹(弁護士,検察官,裁判官)を目指して地道に勉強して下さい。法学部の先生方は全力でサポートしてくれるはずです。
 しかし,ことによると,皆さんの中には,法律学を勉強しているうちに,括弧付きの「正義」とか「平和」について根本的な疑問を感じて,立ち往生してしまう人もいるかもしれません。そんなときは,立ち止まって一緒に考えてみましょう。心配は要りません。法学部では,「権利=法」をめぐる闘いについて,いわば「外側」から考えるための「基礎法学」(法哲学,法制史,法社会学など)の講義も開かれています。そこでは,「法的な考え方」の弱点や限界についても学ぶことができます。
 法律学の勉強は難しいと最初に言いましたが,地道に勉強してみると,これが意外なほど面白いことに気がつくでしょう。勉強すればするほど,「へえ,なるほど」と思うことも多いはずです。さあ,自分の将来の目標を見定めながら,一緒に前進しましょう。