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法学との出会い…新しい自分の発見へ

高田 寛

担当科目 英米法2-1(アメリカ契約・不法行為1),グローバル企業法,演習
専門分野 グローバルビジネス法,国際取引法,技術と法

新入生の皆さん,明治学院大学法学部ご入学おめでとうございます。
 皆さんは,数ある専門分野から「法学」を選ばれたわけですが,「法」の語源をご存知でしょうか。「三水」(さんずい)に「去」とは,どんな意味があるのでしょうか。「三水」ですから「水」に関係がありますね。「水」から「去る」ということですから,海水浴からの帰りか,水遊びからの帰りか,そんなことを想像するのではないでしょうか。それと「法」と,どのような関係があるのでしょうか。
 漢字源によると,「法」とは「池の中の島に廌を押し込め外に出られないようにした様」を表しているのだそうです。「廌」は「タイ」とか「チ」と読みまして,伝説上の神獣だそうです。形は,猫や虎に似ていて,背が高く,馬と鹿を合わせたような角のある想像上の神獣だそうです。この神獣は「悪者に触れてその非を糺す」ことができる動物だとのことです。
 「廌」について中国に面白い故事があります。中国の春秋時代の斉国で,ある訴訟が起きました。非常に難しい訴訟で,解決できなかった斉国の庄公は「廌」を呼び,「廌」にその訴状を読ませたのだそうです。そうしたら,たちどころに解決したのだそうです。このように,「廌」には,善悪を見極める力があるのだそうです。そのため,漢の法官の冠には,この神獣の角を形どった物が使われていたそうです。
 ですから,「法」の語源は,善悪を見極める力のある「廌」を池の中の島に押し込めた様をいい,さしずめ,この島は法が支配するユートピアだったかもしれませんね。そこは「水で隔離された別世界」という意識が昔の人にあったのかもしれません。それほど,昔は理不尽なことが巷に溢れていたのでしょう。
 これは中国の話ですが,ヨーロッパにも面白い話があります。正義の女神「テーミス」をご存知ですか。ギリシャ神話に出てくる女神です。この女神は,天の神であるウラノスと大地の神であるガイアとの娘だそうです。右手に剣,左手に天秤を持つ女神で,司法・裁判の公正さを表すシンボルとして,昔から裁判所や弁護士事務所に使われています。弁護士バッジをよく見ると,ひまわりの花弁の中央に天秤が見えますが,実は,まさに正義の女神「テーミス」の天秤なのです。右手の剣は,悪を退治するという意味です。このように,「法」は「正義」と表裏一体のものと考えられていました。
 ローマ神話の中にも,テーミスに似た女神が登場します。この女神の名前は,「ユースティティア」といいます。ある説によれば,「テーミス」と「ユースティティア」はもともと同じだったようです。「廌」も「テーミス」もウェブで検索すると面白い画像がたくさん出てきますので,もしご興味があれば,ご覧ください。
 この「正義」ですが,アメリカには,日本の法務省に当たる司法省がありますが,英語の表記は,「Department of Justice」です。略して「DOJ」です。「司法省」は直訳すると「正義省」なんですね。では,アメリアの裁判官は,何というかご存知ですか。実は,通常は「Judge」といいますが,アメリカ最高裁判所などの上級審の裁判官は「Justice」といいます(ニューヨーク州のような例外もあります)。つまり,上級審の裁判官は「正義」そのものなんですね。少なくとも,アメリカ人は,上級審の裁判官に「正義」を期待しているといえるでしょう。もし,ご興味があれば,ドイツ語の「法」や「正義」も調べてみてください。きっと,面白い発見があると思います。
 このように,「法」と「正義」は切っても切れない関係があります。「法」とは,この世に「正義」を実現するための道具なのかもしれません。では「正義」とは,いったい何でしょうか。以前,ハーバード大学のサンデル教授の「正義とは何か」という講義をテレビで放送していましたが,ご覧になった方も多いでしょう。非常に難しいテーマですが,共通していえることは,「公正」と「公平」が,このテーマを考える鍵のような気がします。いろいろ考えると面白いですね。
 これから,皆さんは「法学」を学ばれるわけですが,「法とは何か」をいつも考えながら学んでみてください。必ず,そこに新しい発見があると思います。一見すると無味乾燥に見える法律が,実は,「正義」を実現するための立法者の思いが見え隠れするのがわかります。そこは,理不尽な仕打ちにあった人たちを,何とか救ってあげたいという愛に満ちた素晴らしい世界が広がっているのがわかるでしょう。今まで,どんなに多くの人が理不尽な目にあってきたのか,そして今,法によって我々がいかに守られているのか。そこには,どんな思いが隠されているのか。ぜひ,これを皆さんに体験していただきたいと思います。そして,それが,今までとは違った新しい自分の発見につながっていくことでしょう。
 せっかく入った法学部です。思いっきり「法学」を勉強してみてください。学問は嘘をつきません。「法学」という学問との出会いは,新しい自分の発見へとつながっていきます。私は,そのために少しでもお役に立ちたいと考えております。ぜひ,一緒に頑張りましょう。期待しています。