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白金法学会

最優秀卒業論文賞

2011年度 白金法学会最優秀卒業論文賞

受賞者には、2012年3月16日の卒業式会場において、白金法学会から表彰状と賞金が授与されました。

◇法律学科 石垣 静香(いしがき しずか)
公安職における性差と個人の権利保護―アファーマティブ・アクションと男女別採用枠の関係性について―

 公安職である警察官や消防官の採用には、性別が大きく関わっている。警察官や消防士の職務を遂行するには一定の身体的能力が不可欠であり、採用選考に性別による体力差が影響することは避けられない。他方で、近年、多様化する犯罪および災害や救急に対応するために、女性を警察官や消防官として育成する必要性が高まっている。職場における多様性の促進が多くの人命を救うことにつながるのだ。 この目的を実現するためには、形式的に男女差別を禁止するだけでなく、アファーマティブ・アクション(AA)によって現に存在する男女格差を是正する必要がある。しかし、AAは公務員採用の基本原則である能力主義との整合性が問題になるほか、憲法14条に反する逆差別をもたらす可能性もあるため、慎重に実施しなければならない。そこで本論文では、現在の公安職員採用の実態を踏まえ、海外の判例や法律を手がかりとして、AAの可能性について考察した。
 わが国における警察官採用は、県単位で男女別採用枠を設けて行われている。完全能力主義の下では体力の劣る女性が警察官になれる確率は男性より低いが、当該採用枠は生物学的な体力差を考慮した女性にとって有利な採用方法であるといえる。また、募集人数は目標値として設定されているため、設定した人数を採用する努力を促す利点があり、女性警察官採用の促進に繋がっている。したがって、男女別採用枠は一種のAAであり、女性の採用を促進するために有用であると考えられる。日本にはAAの法的正当性に関する研究は少ないが、米国の判例や法哲学・政治哲学の文献を参照すると、当該採用枠は多様性の促進を目的とするAAとして正当化できる(違法な逆差別には当たらない)と考えられる。
 一方、消防官では原則として男女別採用は行われず、体力試験のみ男女別の基準で採点される。この方法だと、総合点で合否判定を行う場合に体力試験について誤差が生じ、能力主義に反する結果を招きかねない。また、消防官は自治体ごとに採用が行われるため採用人数に限りがあり、一部自治体で行われている男女別採用は硬直的な割当制になりやすく、逆差別を生じやすい。そのため、本論文では、採用の広域化を促進し、県単位の男女別採用を行うことを提案した。県単位の採用であれば、目標値設定型を基礎に募集人数を決定でき、逆差別の問題を軽減できるだろう。消防行政の観点からみても、広域化の促進は社会的にもたらす利益は大きく、更なる救命率向上が期待できる。

講評

 本論文は、女性公安職員(警察官や消防士など)のためのアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の可能性について考察したものである。日本の警察官と消防士の採用実態を把握した上で、アファーマティブ・アクションの正当化根拠について論じた法哲学・政治哲学の文献やアメリカ合衆国の判例を手がかりに考察を進めている。体力などの性差が大きいことから男女別の採用枠を設けることは女性の採用を促進するアファーマティブ・アクションとして基本的に妥当であるが、消防士の場合のように市町村単位の少人数採用では逆差別の問題が生ずるおそれがあるため、警察官の場合のように県単位の広域採用を行うことが望ましいと結論付けている。
 卒業後女性消防士になるという強い問題意識に基づき、日本での先行研究がほとんどないテーマについて、オリジナリティの高い分析を展開し、またアファーマティブ・アクションを一方的に唱道するのではなく、その問題点にも配慮した説得力ある議論ができているといえる。末尾に参考文献の一覧がないという僅瑕はあるとしても、卒業論文として際立って優れたものであると認められる。以上の理由により、最優秀賞を授与することとした。

優秀賞

石原 一樹(法律学科)「推計課税の一考察-推計課税の本質論-」
柳澤 みどり(政治学科)「日本におけるメディア・リテラシー教育の現状と効果」
三上 周(政治学科)「国家資本主義の興隆」

奨励賞

井上 咲夢(法律学科)「ボランタリー団体から非営利組織へ~組織化へのシナリオ~」