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白金法学会

最優秀卒業論文賞

2017年度 白金法学会最優秀卒業論文賞

受賞者には、2018年3月20日の卒業式会場において、白金法学会から表彰状と賞金が授与されました。

◇消費情報環境法学科 豊岡 圭織
『企業のリスクマネジメント ―日本企業は今後どのようなコンプライアンス経営をしていくか―』

 現代において重要となるのが、企業によるコンプライアンス経営の在り方である。コンプライアンスとは、広い意味での社会的理念や行動規範を誠実に遵守・実践することである以上、企業の経営者だけでなく、従業員一人一人が遵守することが急務であると言えるであろう。  
 今後、日本企業がなすべきコンプライアンス経営を考える上で必要なことは、主に3つあると考えらえる。  
 1つ目は、経営者によるリーダーシップの発揮である。  
 多くの不祥事において「企業風土」という言葉が出てくる。これは会社ごとにその色は異なり、トップの影響をより強く受け、反映されるものといえる。つまり企業風土はトップである経営陣が作り出すものであり、倫理的な価値観を組織に根付かせることは重要である。  
 2つ目は、企業を取り巻く社会環境に対し柔軟に対応することである。  
 社会は、企業不祥事に対し、従来とは異なる厳しい批判を行うようになった。これに伴い、法的環境も変化し、内部統制の制度化の動きが加速して、企業にコンプライアンス体制の構築を促す諸制度が行われるようになってきている。  
 3つ目は、業績との関係を見直すことである。  
 企業には社会的ルールに則った経営活動を図ることが求められ、積極的なコンプライアンスによって世間の信用の維持と向上を図ることができる。それにより、良い取引先・顧客との取引が増え、収益の源泉となり、従業員の士気も向上し、内部統制がより充実するのである。世界中でCSRの取組みが急速に進んでいることからも、今後は利益至上主義からコンプライアンス経営という世の中に、徐々に進んでいくことになるだろう。  
 このような企業行動が取れないと、消費者との良好な関係が結べない。従業員の士気は低下し、内部統制も乱れ、トラブルが多発していく。その結果社内的な信用が下落し、企業イメージを損ね、収益が悪化していくことになりかねない。さらに不祥事が続いた場合には、市場からの撤退が余儀なくされることになる。そのような状況に陥らないためにも、実効性のあるコンプライアンスを推進していくことが大切である。そしてそのことが、企業のみならず、経営者や従業員の利益を守ることになる。企業倫理の確立・強化は企業社会の発展の原動力になるだろう。

講評

・長文の論文を仕上げたご努力に敬意を表しますと共に、会社経営に携わる社会人の立場としても大変貴重な勉強をさせていただいた論文でした。テーマの選定、文献の引用においても、論理の一貫性や説得力が感じられました。独自の意見も巻末に分かり易くまとめられており、考察も適格な判断がなされていました。全体的に読みやすい文章表現だったと思います。現役の学生とは思えないような、大変詳細に調べて書かれた素晴らしい論文でした。
・テーマの選定、文献の引用においても論旨が一貫しており、論理的に明確な結論が導かれていました。結論だけを見てしまうと独自性に欠けてしまうかもしれませんが、コンプライアンスという抽象的な事柄に対して、多角的な見地から深く論じて立証しており、その点において独自性、考察力も高いといえます。文章量にも驚きましたが、大変よく勉強されており、卒業論文として非常にレベルの高い内容といえます。

◇政治学科 菖蒲 理乃
『日本における同性パートナーシップ制度の導入要因ならびに成果と課題について』

 日本では同性カップルの結婚が認められていない。そのため、日本で過ごす同性カップルは異性間のカップルのように婚姻制度が適応されないなど、いくつもの困難に直面している。そうした問題に応じる動きとして、自治体における同性パートナーシップ制度の導入が挙げられる。同性パートナーシップ制度は、同性カップルが自治体から同性カップルであるという証明書をもらうことができる制度である。これにより、同性カップルが医療機関や企業などで夫婦と同等のサービスを受けることなどが可能になる。現在ではこうした制度が東京都渋谷区、東京都世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市、北海道札幌市の6つの自治体で導入されている。  
 本稿は、6つの自治体を対象に同性パートナーシップ制度の導入要因を明らかにし、他自治体に制度を広めるために鍵となる点を見出すものである。加えて同性パートナーシップ制度の成果と課題を検討し、制度のあり方や制度以外の対策について提言している。  
 まず、同性パートナーシップ制度の導入要因については、政治的要因、社会経済的要因、外的要因に関する仮説を提示し、数値や指標を用いて分析するとともに、最も早く導入した渋谷区と世田谷区の職員にインタビューを行った。その結果、非自民の首長や議員の存在ならびに性的マイノリティに関する取り組み期間の長さが関係していたことが明らかとなった。特に前者に関しては、当事者の声が市区長や議員に届けられることが制度導入につながっていることが見出された。
 次に、成果と課題に関して先進自治体である上記2自治体にインタビューを行った。その結果、導入形態は条例と要綱とでそれぞれ異なるが、どちらの自治体でも認知度は比較的高く、教育現場での支援にも力を入れている点、成果として認識していることがわかった。他方で、条例では効力は高いが費用も高く、要綱では効力は低いが無料であり、制度に一長一短があること、そのため今後は国の法制化が待たれることが課題として導き出された。  
 一部の自治体で同性パートナーシップ制度が導入されたが、今もまだセクシュアル・マイノリティ当事者にとって多くの問題が残されていることがわかった。性別適合手術やホルモン注射の保険適応、同性結婚の合法化など、自治体では対応できない問題が多い。当事者が声をあげるだけでなく、また今後は自治体レベルにとどまらず、国として性的マイノリティに関する取り組みを進めていくことが重要だと考える。  

講評

 同性パートナーシップという現代我国が抱える大きな問題について、先例や文献が少ない中、テーマとして取り上げたことに対して、とても大きなチャレンジ性を感じるとした審査員の方々からの意見が多数聞かれました。また、その様な状況の中、この問題について、先進的に取り組む自治体へのインタビュー、調査等がきめ細かくなされていた点を評価する審査員の方々からの意見も多数聞かれました。さらに、論文としての形式も良く整っており、考察について独自意見が記述されている点も高い評価でした。一方で、若干の変換ミスが見られた、調査対象の自治体に偏りが見られるなどの意見、また、政治的なアプローチについては、やや弱いのではないか、憲法との整合性などについても考察されていれば、より深みのある論文に仕上がったのではないかとする意見も聞かれました。しかしながら、それらをすべて考慮に入れても、大学生の論文としては、特筆すべき出来上がりとなっていたとする審査員の方々が多数を占め、結果として、最優秀卒業論文賞として十分に値するということになりました。 

優秀賞

山本 明登(消費情報環境法学科)「日本のワイン生産を巡る法的・政策的課題」
小林 茉央(政治学科)「ワイン産業と農業協同組合の構造変化 ―日本の新興ワイナリーのブドウ栽培―」
安田 伽奈(政治学科)「高校における主権者教育のあり方について ―若者の投票参加を促すには―」

奨励賞

山﨑 満里奈(法律学科)「サーバ型電子マネーの新たな展開と検討」