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白金法学会

最優秀卒業論文賞

2021年度 白金法学会最優秀卒業論文賞

受賞者には、2022年3月18日の卒業式会場において、白金法学会から表彰状と賞金が授与されました。

 

◇政治学科 鶴岡 菜奈

『日本で安楽死は認められるべきかー国際比較を通じて考察するー』

 本稿は、日本で安楽死が認められるべきであるかについて、日本と安楽死が認められている国を比較することで、日本の問題点を明らかにし、検討したものである。また、日本で安楽死が認められるべきかという問いに対し、筆者なりの答えを模索した。

 第1章では安楽死の概要を踏まえて、日本の現状を確認した。日本で過去に起きた安楽死事件をうけて、現在の「終末期医療の決定プロセスに関する指針」というガイドラインが発表された。また、日本人の安楽死や尊厳死の認識について筆者が行ったアンケートでは、自分が安楽死を望むことはあっても、家族や周りの人間の場合はためらうことがわかった。加えて、死について考えたことはあるものの、それを家族と話したり議論したりすることはあまりないことがわかった。

 第2章では安楽死が認められている国としてオランダ、ベルギー、スイスを主に取りあげ、法制化までの経緯や実態、各国がそれぞれ抱える課題を明らかにした。厳格な法整備や医師との対話を重ねたうえで安楽死が実施されている一方で、認知症患者や精神疾患の患者に対する安楽死の適用や、法の拡大解釈による安楽死の増加などの課題が存在することがわかった。

 第3章では日本と安楽死が認められている国を比較したうえで、日本での安楽死の問題点を検討した。その結果、日本の問題点として3点を指摘した。1点目に死生観が海外と異なること。2点目に死について議論が少ないこと。3点目に医療制度が不十分であることである。

 これらを踏まえて本稿では、生きる支援があること、厳格な法整備が敷かれることを条件としたうえで安楽死が日本でも認められるべきだと結論づけた。安楽死問題を考えるには、まず死の議論をタブーとする日本の文化を変える必要がある。国民が正しい知識を持ち、関心を高めることが、難病や安楽死を考えている人を助けることに繋がる。少子化が進みますます高齢化する日本において、どの人も必ず直面する死の問題は目をそらさずに考えていかなければいけない。

講評

 安楽死の問題は我が国でも半世紀前から論じられてきたが、法律的に明確な根拠が示されずに今日に至っている。現在は消極的安楽死が家族の同意のもとに実施されているのが現状である。筆者のオランダやベルギーやスイスにおける法制度の時代的推移は、日本が何も法的措置を明文化してこなかったので大変参考になると考える。アジアでの韓国の動きなどは今後日本としても再び論じられる機会があっても良いと思う。筆者の論文は海外と日本の安楽死に対する考えの違いを、歴史的事件を取り上げながら比較検討しているのでそれぞれの論点が分かり易い。論文の構成も起承転結が整理されており、終章では全体の流れを説明し、終わりには独自の意見や考察が述べられている。日本での安楽死の問題は度重なる判例を経て、現在では尊厳死も含めて医療の世界では比較的問題なく運用されていると考える。筆者の意見のように、死に対する考え方はもっと国内で広く論じられることが望ましいと思う。テーマとしては新鮮味は薄いが、問題を掘り下げた素晴らしい論文だと評価したい。

 

◇グローバル法学科 礒元メリッサ瑠奈-本文はこちらから

『人種差別と性差別のインターセクショナリティと法制度』

 マイノリティ女性は長い間コミュニティや運動の中で不可視化そして排除され、法制度においても当事者が受ける交差的な差別に焦点を当てた包括的な法律がないため適切な救済を受けられないことが多い。本稿では、人種差別と性差別のインターセクショナリティによって発生する交差する差別の事例を説明した上で、国際人権法や条約がどのような役割を果たし、日本政府がどのように対応していくべきか検討した。

 インターセクショナリティとは、複数の属性が交差したときに起こる差別や抑圧を分析する枠組みのことを指す。この枠組みの視点からマイノリティ女性が直面する人種差別と性差別が交差する社会的問題、法的問題、そしてコロナ禍に拡大している被害についてアメリカと日本それぞれの分析を行った。

 まず社会的問題としてアメリカでは賃金格差や性暴力被害について、日本では外国人女性が受けるDV被害や在日コリアン女性が直面してきた教育の機会への制限とヘイトスピーチについて取り上げた。次に法的問題として包括的に差別を禁止する法律がないこと、それゆえに裁判において交差的な複合差別の法的救済が難しくなることが報告されている。最後にコロナ禍の被害としてアメリカでは女性やマイノリティに偏る失業率の高さについて、日本ではDV被害やヘイトスピーチの悪化、そしてコロナ禍の支援が後回しにされる懸念が上がり、公的サポートの欠如による差別の被害や当事者への負担のしわ寄せが発生していることが明らかとなった。

 女子差別・人種差別撤廃条約はマイノリティ女性に対する交差的差別について言及しており、各委員会は日本政府に対してマイノリティ女性の被害救済のために問題の調査や法制度の改善をするよう繰り返し勧告をしている。しかし日本政府はすべての勧告に回答はせず、今まで通り人権教育、啓発活動、そして相談体制の整備を行うと言及している。

 以上の分析からマイノリティ女性の被害救済が足りない現状を踏まえ、包括的差別禁止法や国内人権機関の制定・設置が必要だと結論づけた。これらを導入することで差別を可視化させ、私人間だけではなく公的機関からの被害に対する救済も可能となる。しかし、現政権の人権保障に対する消極的な姿勢から、人権侵害の解決がより遅れてしまう課題が残る。

 人権保障の土台作りの一環として法整備は欠かせないものであり、すべての人に影響を与える法律は、誰かが取りこぼされ排除されることのない包括的な存在であるべきである。変革を起こすために、現政権の姿勢に屈さず、引き続き法整備が実現されるために声を上げ続けること、そして個人レベルでは自分のマジョリティ性や交差的な差別の存在を認識することが大切である。

講評

 国内及び海外の文献並びに各数値のデータを深く読み解き、論理的に述べられています。また、内容も一貫しており、全体を通じて強い説得力があります。政策的な内容にまで考察が至っており、御自身の考えもしっかりと述べられています。これらのことからも強い問題意識を持って挑まれたことが伝わってきます。また、読みやすく分かりやすい高い文書力を評価する審査員も多かったです。以上の結果から、最優秀賞がふさわしいとの結果になりました。今回の挑戦は、社会に出てからも強みになります。今後のご活躍を期待しています。

 

優秀賞

渡辺 馨(法律学科)『中世日本における「法」なるものの一考察-分国法の支配から学ぶものー』

眞方 陸(消費情報環境法学科)『ゲームソフト「消費者を救え!」の開発』

椿 ひかる(政治学科)『国家間の差を越える原爆の語りとは何か-こうの史代『この世界の片隅に』を糸口にー』

鎌田 千景(グローバル法学会)『動物愛護法によるペットの生態販売の現状と課題―フランスで2021年に可決された動物取扱い規制を参照して―』

奨励賞

トウ シキン(消費情報環境法学科)『プラットフォーム・エコノミーにおける就労者の労働問題ー対面型サービスをめぐる日中の現状からー』

赤鳥 美帆(政治学科)『ネットメディアは人々の政治的知識にどのような影響を与えうるのか』

田口 慈江(政治学科)『日本の初等教育支援の変遷と課題に関する考察』

桃井 杏実(政治学科)『労働における男女平等の考察と展望』

参加賞

金子 延樹(政治学科)『政治改革の帰結としての第二次安倍政権―政治改革が想定した政治の姿と現状』