白金法学会
最優秀卒業論文賞
2020年度 白金法学会最優秀卒業論文賞
受賞者には、2021年3月17日の卒業式会場において、白金法学会から表彰状と賞金が授与されました。
◇法律学科 笹井 修太郎
『共謀罪を適用すれば野生動植物の違法な持ち込みは減少するのか』―本文はこちら―
本稿は、ワシントン条約(CITES) が保護するカワウソ等の希少な野生動物の密輸入に対し、共謀罪を適用して早期に対処することで、野生動物への影響を低減できないか について 検討したものである。
CITESは、希少野生動植物の国際取引を規制することで 、希少野生動植物の絶滅・枯渇の防止 を図る 国際 条約 である。日本 での 法執行は主に税関が担当しており、希少野生動植物が違法に取引されないよう水際で取り締まっている。
しかしながら、税関は全ての荷物を検査 でき ないため、どうしても密輸された野生動植物が国内に流通してしまう( 問題点 1) 。 また、手続上、 日本国内に 違法に持ち 込まれた野生動物は、動物園等に寄託されるが、輸送中に死亡あるいは行方不明となる割合が高い (問題点 2) 。
先行研究や報道によれば、これらの犯行は、運び屋を使って組織的に行われており、さらに、テロ集団や特殊詐欺グループの関与を示唆する事例も報告されている(問題点 3) 。
こ れらの 問題 を解決 するには、密 輸入 の計画が判明した時点で対処する必要があるのではないか。本稿ではこの ような 発想から密輸組織に対する共謀罪(組織犯罪処罰法 6 条の 2) の適用を検討した。
その結果、本稿では、「同法の適用による問題状況の改善は難しい」と結論づけた 。密輸組織は共謀罪の対象である が 、警察内に環境犯罪に対応する人的リソースが足りないこと、 および 共謀罪の捜査の難しさを ふまえると 、同法による問題解決は期待できない。
では、どのようにして問題状況 を 改善・ 克服 していけばよい のか。
現状、この問題は立件されることが少ないため、報道も少なく、多くの人に 認識され なかった。一方、 CSR の一環 で ワークショップを開き、 野生動物 の密 輸入 について 学ぼうとする 企業も出てきている。
数少ない事例を集積し、それをもとに情報発信 行え ば 、 希少 野生動物の密 輸入 と犯罪組織 が関係しているとの 社会認識 が形成され ていく 。 社会的な関心が高まれば、行政や警察の法執行 、司法 のあり方にも変化が現れるのではないか。 問題状況の改善 ・克服のため に は、 「国民の関心」 を高め ていくことが必要である 。
講評
希少性動物のブームが進む裏では違法取引が深刻化しているという問題に対し、近年人気となっている「カワウソ」を例に、「野生動物の安全確保」と「組織犯罪への対応」の必要性を説く内容は、社会の実態と専攻分野の結びつきがなされ本当に読み応えがありました。また、「共謀罪」を用いて早期対応することの可否と実効性を検討し「同法は適用可能であるが密輸入に対する抑止力とはならない」との結論に至りましたが、その範囲に止まらず、ワシントン条約の国内実施について克服すべき課題までをも具体的に示す構成も首尾一貫していて説得力があり、問題に対する意識の高さを感じました。形式についても非常に分かりやすくまとめられています。
公務に携わり実務における難しさを実感している審査員も、「国際法と国内法の関係を論じること自体が難しいにも関わらず、違法取引の取締に携わる税関職員や警察職員の現状に照らし、法に基づき裁く司法について取り上げている点については、実務面においては文献も少ないと思われる中で、判例をはじめよく考察を加え、今後実務としてどのように行っていけば良いかの政策的見地が述べられていることは見事。」と評しています。
◇政治学科 北 真凜
『メディア多様化時代における地方新聞社の新たな役割とは何か』
ネットメディアの進展により既存メディアの衰退が進む時代に新聞は必要なのか。とりわけ地方新聞は、全国新聞に比較して購読者年齢層が高く、更なる部数減少が懸念され、また資金が乏しくデジタル化や有料記事化、新たな大規模ビジネスの導入は簡単に行えない。
本稿では、問題が複雑化する地方新聞社を取上げ、地方新聞社の新たな役割とは何かを検討した。分析では3つの研究視点を設定し、第1視点で、広告収入割合の大幅低下に対しイベント事業収入割合が上昇したことを踏まえ、第2・第3視点では地方新聞社のイベント事業に焦点をあて、実態調査、法政策からみた役割を考察した。第2視点でイベント事業の実態を娯楽性・社会性と収益性で分類した結果、従来は個人的娯楽を対象にしたイベント事業が多かったが、最近は地方活性化、健康増進、子育て支援など、地域に密着したイベント事業が増加していることを見出した。第3視点で法政策について、文化芸術基本法・スポーツ基本法の改正を分析し、文化の社会的価値・社会権、スポーツの参画が重視されるように追加・明記されたことを明らかにした。
以上の分析を通して、地方新聞社の新たな役割として、イベント事業を娯楽性重視から社会性重視に変化させることが重要であると結論づけた。多くの地方新聞社が、イベント事業を通して地域住民からの信頼を得て繋がりを深めてきた。こうした役割は、地域情報収集力やネットワーク力を駆使し地域に関わる地方新聞社にとって、ネットメディアや全国紙より優位な機能であると考えられる。しかし、社会性を重視したイベント事業実施はまだ発展の途上にあり、健康・地域活性化・子育て分野で実施がみられるものの、文化芸術分野等では、社会課題を扱うイベント事業はなお限定的であり、これが新たな役割における課題として指摘できる。
地方紙の廃刊が相次ぐアメリカでは、地域住民の繋がり、地域の社会課題への関心が薄れている。新聞の本質的役割として、報道機能、権力監視機能を持つとされるが、本質的役割を強化する点からも、地方新聞社においては、地域の社会課題を発見し、イベント事業等を通して地域の課題解決を目指し、地域の繋がりをさらに強化する新たな役割が求められていると言える。地方新聞社の地域における役割を見直すことが必要である。
講評
政治学科で4年間学ぶ中で、メディア、報道に対する見方・考え方を養うことは極めて重要なことだと思います。メディアが発達・多様化する中、地方新聞社に焦点を当てた分析を行った点は、その独自性の点から審査員から高い評価を得ました。地方新聞社の記事を分析するのかと思いきや、各社が主催するスポーツイベント、文化イベント等の事業について、その役割を検証し、新たな役割を説いていくという点に、大変感心させられました。また、論文の構成や論旨の一貫性も適切であり、事業事例の分析量も大変多く、形式面においても大変優れていました。最優秀卒業論文賞に相応しい、素晴らしい論文でした。
◇消費情報環境法学科 榊 尚子
『スポーツと政治―アスリートの政治的行動と課題―』
講評
「スポーツと政治」というテーマについて、歴史的な出来事を十分に考慮したうえで、法律的視点も加味し論じることが出来ていると感じました。また、東京オリンピックが開催される予定である本年にも非常にふさわしいテーマ選定であると感じました。
第1章では、スポーツの歴史から、人権、スポーツ件まで様々な文献を使用し論理的にまとめ上げられていたと感じます。2章では、オリンピック憲章を主軸とする中立性と、その中立性に準じて開催されてきたオリンピックの歴史について簡潔にまとめられていました。第3章では、近年のオリンピックを取り上げ、「オリンピックの政治的利用」という「オリンピックの影」の部分にも焦点を当て、政治とスポーツを結びつけることが出来ていました。第4章の「アスリートの政治的行動」では、昨今も頻繁に話題に挙げられる「人権」を中心とした差別について、アスリートのオリンピックにおける政治的行動の例をしっかり調べ上げ、詳細に記述されていた点が評価できると感じます。また、最終章では、1-4章で論じた背景をしっかりと認識し、アスリートの政治的行動と人権について、有識者の意見を比較したうえで論理的に結論を出せていた点が評価に値するとの結論に至りました。
また、論文テーマ選定については、東京オリンピック開催が予定されている本年に、本論文のテーマ選定をしたことについて高い評価がなされておりました。
優秀賞
宮本 卓 (法律学科)「令和2年度スマート農業実証プロジェクトの検証と醸造用ブドウ栽培への実用可能性
―ワイン・クラスタ―の構築と法政策的な課題―」
西口 遼 (政治学科)「日本の報道の自由問題―今、日本の報道の自由が危ない!?―」
細野 裕輝(政治学科)「日本の将来的な国連外交の在り方―国連との関係史を踏まえて―」
横地 由衣(政治学科)「公的年金制度の持続可能性のための要因分析」
奨励賞
野島 彩羽(消費情報環境法学科)「AI婚活は少子化対策に有効なのか」
國井 大輔(政治学科)「21世紀日本の安全保障再考―海洋進出を強める中国と東シナ海の視点から」
小林 七海(政治学科)「朝鮮半島分裂問題の本質的原因と今後の展望」
小林 美結(政治学科)「政治的マイノリティの議会参加は代表民主制の政治機能をどのように向上させるのか」