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白金法学会

最優秀卒業論文賞

2022年度 白金法学会最優秀卒業論文賞

受賞者には、2023年3月17日の卒業式会場において、白金法学会から表彰状と賞金が授与されました。

 

◇グローバル法学科 吉田 なな子

『選択的夫婦別氏制度は氏制度による男女格差を解消できるのか』

 日本では、婚姻時に夫婦の氏をどちらかに必ず揃えなければならない(夫婦同氏制度)。他国では別姓の夫婦も存在する中で、日本ではそれが不可能であることと、氏の変更によって生じる様々な不利益を主に女性が被っている日本の現状に疑問を抱いたことを契機として、「選択的夫婦別氏制度」について考察した。本稿は、このような氏制度による男女格差は、夫婦同氏制度を維持しつつ別姓の夫婦を希望する者達にはそれを認める「選択的夫婦別氏制度」によって解消しうるのではないかと考え、それについて検討したものである。

 本稿においてはまず、氏を取り巻く日本の現状を概観する。①現在導入されている夫婦同氏制度、②以前から導入が検討されているにも関わらず未導入である選択的夫婦別氏制度、そして③現在日本政府が行っている旧姓の通称使用の3つの氏制度のそれぞれについて、制度の特徴や展開、それらを取り巻く社会情勢などを確認している。この中では、いくつかの世論調査から国民の婚姻時の氏に対する意見や、裁判例なども取り上げ、様々な面から日本の氏制度の現状を概観した。

 次に、氏の変更による不利益をなぜ多くの女性が被ることが当たり前になったのかについて、その原因や経緯について検討した。明治民法によって日本の家族観が強く影響を受けていたことや、以前よりも女性の社会進出が進んで日本の家族の形が変化し続けているにも関わらず、氏制度は時代の流れに対応しないままであることなどが原因であると思われる点について考察した。

 そして、以上を踏まえて検討した結果、選択的夫婦別氏制度は氏制度による男女格差の解消の足掛かりになりうると結論づけた。変わり続けている日本社会に適応できる一方、日本のこれまでの夫婦同氏制度を維持し続けることができる選択的夫婦別氏制度なら、様々な夫婦の形に対応することできる。子どもの氏の問題などについては引き続き議論が必要だが、選択的夫婦別氏制度の導入によって、より多様性に富んだ日本社会を形作ることが可能であると考えた。

講評

 海外留学体験において気づきを得たことから始まり、「これから婚姻の可能性もある社会に出るひとりの人間として」当事者意識をもってこの問題に取り組んだ、グローバル法学科にふさわしい着眼点を称えます。日本の氏制度の歴史、「男女どちらの姓でもよい」という文脈上の男女平等がありながら実は多くの女性が不利益を被っている現実、世論調査、司法判断という幅広い観点から論じ、文献や統計データを有効に活用しながら筆者自身の言葉で意見が述べられ、説得力、読みやすさに優れています。

 これまでにも議論が重ねられてきたテーマであり、改めて取り上げるのであれば新たな切り口がほしいところ、やや従来の議論の焼き直しの感ありとの指摘もありましたが、自分なりの考察がなされていることも読み手に伝わり、全体的には説得力がある意欲的な論文とする声も多く得られたことから、最優秀に値すると評価しました。今後もこのテーマに関心を持ち、制度導入に消極的な日本政府を動かすにはさらにどんなことが必要なのか、突き詰めていかれることを期待しています。

優秀賞

根岸 響可(消費情報環境法学科)『「パロディ」における著作権と表現の自由』

遠藤 礼菜(グローバル法学科)『人間の安全保障ー日本の平和構築支援に与える影響についての考察と展望ー』

CHIN KE XIN(グローバル法学会)『マレーシアにおける民族差別』

石井 柚衣(政治学科)『主権者教育に携わる団体と高等学校に関する現状と課題』

亀井 のい(政治学科)『中国人留学生の増加が日本の人材育成に与える課題』

奨励賞

横田 直人(法律学科)『憲法9条と日本の安全保障』

佐武 優輝(消費情報環境法学科)『介護疲れによる殺人』

川島 美希(グローバル法学科)『プラスチックの資源循環に関する法・政策−日本の3R政策は世界的な資源情勢に基づいたふさわしい政策であるか−』

野々村 協(政治学科)『ポスト・ウクライナー幻想(リベラル国際政治)の終焉ー』

茂呂 翔吾(政治学科)『スウェーデンの中立政策ー地政学的視点からの考察ー』

参加賞

小林 花菜(政治学科)『インターネットやSNSを活用した地方議員の情報コミュニケーションのあり方』

ロハニ 美羅樹(政治学科)『政界再編期における自民党総裁・河野洋平』