法学部長の今尾です。
今年度は、新型コロナウィルス感染症の影響拡大に伴い、大学として、入学式典、学科別の新入生ガイダンス、新入生研修会等、全てを中止といたしました。関係する皆さまの健康面、安全面を考慮し、感染防止・リスク回避のため、苦渋の決断です。新入生および保証人の皆さまにとっては、大学生活の出発として、最初の晴れ舞台を大変楽しみにしておられたと思いますが、このような事情をご理解いただき、ご海容くださることをお願い申しあげます。
そこで、皆さんには、入学を祝して、法学部教員を代表して、インターネットによる祝辞と法学部で学ぶにあたっての心構えなどについて配信させていただきます。
あらためまして、新入生の皆さん、明治学院大学法学部・法学研究科にご入学、誠におめでとうございます。 また、保証人の皆さまにおかれましては、ご子息、ご息女の本学へのご入学を、心よりお慶び申しあげます。
さて、法学部では、本学の建学の精神であるキリスト教主義の教え、「Do for Others(他者への貢献)」の理念に則り、法学や政治学の教育を行っております。
学生が社会に出たとき、正義・公平・弱者救済の見地から賛成できない場面に直面したとき、「声」をあげる勇気をもった人材の育成を目指しております。そのために、法学や政治学をとおして、社会のルールや仕組みについて学び、それらを使いこなす知識と思考力・判断力を身につけることを教育目標としております。
つまり、こうした能力を駆使して、「気概」と「志」をもって社会に貢献できる人材を養成しているというわけです。世の中が変わっても、こうした人材が求められることに変わりはありません。実際、本学法学部・法学研究科の卒業生・修了生は、民間企業、公務員・NPO・政界、法曹・士業、自ら起業をするなど、様々な分野で活躍しています。皆さんも、こうした先輩達に続くべく、大いに学問に励んでください。
そこで、本日は、皆さんの法学部・法学研究科入学に際し、法学・政治学にまつわるお話しをして、これからの学業の指針としていただきたいと思います。
法や政治は、堅苦しく、無味乾燥と思われがちですが、決してそのようなことはなく、非常に「人間味溢れる、豊かな学問」であるということです。
日本近代法、特に民法典の制定にかかわった穂積陳重という大学者の著書『法窓夜話』(岩波書店、1980年)の序文において、「法律の話と言えば、直ちに乾燥無味が連想されるのも無理はありません。しかしながら、法律が道徳宗教と相並んで人生の大法則である以上、そしてこの人生なるものが乾燥無味でないならば、法律談としても乾燥無味なはずはない」と、述べております(本書序文17頁。これは、穂積陳重の子、穂積重遠が、父の著書は、「法律談は乾燥であるという濡衣を干したい微意で」書かれたものと評しております)。
また、皆さんもよくご存じの「三権分立(司法・立法・行政)」を提唱した、フランスの哲学者・啓蒙思想家であるモンテスキューは、実は法律家でもありますが、名著『法の精神』の「はしがき」で、「私はまず人間を研究した。そして、私は、法律や習俗のこの無限な多様性のうちにあって、人間がただみずからの気紛れだけから行動しているわけではないと考えたのであった」と書き記しております(モンテスキュー著=野田良之他訳『法の精神(上)』〔岩波書店、1989年〕33頁)。
モンテスキューは、「法が政体の性質および原理や、風土・地勢や、習俗や、宗教や、生活様式と密接に関連することに着目し、法をそれらすべてとの関係において把握しよう」(木村亀二編著『近代法思想史の人々』〔日本評論社、1968年〕14頁〔宮沢俊義〕)としたわけであります。現に、この本の正式なタイトルは、『法の精神について、あるいは、法律が政体の構造、習俗、風土、宗教、商業などに対してもつべき関係について これに、著者は相続に関するローマの法律についての、また、フランスの法律や封建制の法律についての新しい諸研究を加えた 母なくして生まれし子を』というものです。法ないし法律・政治は、人間に大きくかかわる学問といえます。
換言すれば、「法学・法律学・政治学は、人間を考察する学問」といえます。だから、とても面白く、とても悲しく、憤りを感じる、生きた学問であるということを、今から楽しみにしていてください。
もう一つは、入学式で必ず、わたしが新入生にお伝えすることで、アメリカの法学者の話ですが、20世紀初頭のアメリカ連邦最高裁判所判事で、社会学的法律学者としても著名なカドーゾという学者がおりました。
彼が名著『法の成長』(B.N.カドーゾ著、守屋善輝訳『法の成長』〔中央大学出版会、1965年〕)の冒頭で、次のような言葉を述べております。“法は安定していなければならない”、しかし、“法は常に変化しなければならない”、安定と変化のバランスをいかにとるか、これが法および法律家に課せられた永遠の課題であると。
この言葉は、わたくし、非常に好きな言葉で、バランス感覚の大切さを説くこの言葉は、法および法律家にとっての指針であるばかりでなく、まさにこれから法学や政治学を学びはじめる学生にとっても、こうした視点をもって学業に励むことは、非常に重要だと思います。バランス感覚を養ってください。
この「バランス感覚」をもって、法学・法律学・政治学、すなわち「人間を考察」して、「Do for Others」を実践できる人になっていただきたいと思います。これこそ、明治学院大学法学部が標榜してきた真の「リーガル・マインド」の養成であるということができます。
最後に、法学部を出て、将来、法曹を目指す学生のために、法曹養成に関する改革についてお話しいたします。すでに、法学部ホームページ等で紹介しておりますので、ご存じの方もおられるかもしれませんが、今年度より、弁護士・裁判官・検察官などのいわゆる“法曹”を養成する仕組みが大きく変わります。
簡単に言いますと、これまでは、法曹を目指す場合、法学部で4年間、法科大学院(ロースクール)で2年間勉強してからでないと司法試験を受けられなかったのです―つまり最短で6年間勉強して、7年目に司法試験受験・合格という制度でした―が、これを一部改革して、法学部で3年間(早期卒業)、法科大学院で2年間、そして法科大学院2年目に司法試験を受験できる、最短5年で司法試験受験・合格という制度を取り入れる改革です(従来の6年間の制度も併置)。今までの制度よりも2年早く、法曹として活躍することができるようになります。
本学には法科大学院はありませんが、多数の司法試験合格者を輩出している、他大学の有力法科大学院、具体的には、早稲田大学・慶應義塾大学・中央大学・明治大学・東京都立大学・千葉大学の6法科大学院と、教育連携協定を締結し、文部科学省による認定を受け、法科大学院と連携したカリキュラムにより法曹志望者向けの教育を行う「法曹コース」を法学部法律学科に開設いたしました。つまり、本学においても、法曹を志望する学生のニーズに対応する制度を設けたのであります。
これまでも、本学から、これらの大学院に進学して司法試験に合格している皆さんの先輩達がおります。今後は、「法曹コース」に正規に所属し、優秀な成績を収めますと、上記の法科大学院既修者コースに学科試験免除(あるいは一部試験科目免除)で進学できるという制度が整備されました。
したがいまして、法曹を目指す学生は、本学の法曹コースから有力な法科大学院進学へという道が拓かれましたので、大いに精進してください。
それでは、締めくくりとなりますが、大学の4年間・大学院での数年間は、長いようで短い時間です。この間に、「自分をどう磨き、光らせるか」、皆さん次第です。将来を見据えて大学生活を有意義に送ってください。あらゆる可能性が皆さんの前に広がっております。
あらためて、ご入学、おめでとうございます。
2020年4月3日
以上