2021年度 法学部卒業生への祝辞
法学部長の今尾真です。
卒業生の皆さん、明治学院大学法学部の卒業、誠におめでとうございます。
また、保証人やご家族の皆さまには、ご子息、ご息女のご卒業を、心よりお慶び申しあげます。
現在も、いまだコロナ禍が収束せず、卒業式も、チャペルへの卒業生の入場制限、保証人の皆様の大学への入構制限といった措置を執らざるを得ませんでした。関係する皆さまの健康面、安全面を考慮し、感染防止・リスク回避のため、大学として苦渋の決断であります。卒業生および保証人の皆さまにとっては、大学生活の締めくくりとして、最後の晴れ舞台を大変楽しみにしておられたと思いますが、このような事情をご理解いただき、ご海容くださることをお願い申しあげます。
また、一昨日の東北地方で起きた地震のため、またはコロナ等のため本日式場にこられなかった卒業生諸君には、大変悲しく、無念かと思いますが、この映像を通して心で参加し、ここに集う卒業生と一つになりましょう。
それでは、卒業生に対し、法学部を代表して一言お祝いの言葉を述べさせて頂きます。
皆さんは、建学の精神であるキリスト教主義の教え、「Do for Others(他者への貢献)」の理念(「マタイによる福音書」7章12節)に則り、自由清新な学風 ・ 雰囲気が大学全体に漂う、明治学院大学の法学部で、建学の理念の具体化である「自由・平等・正義と社会貢献を尊ぶ精神」を、法学、政治学などの学問を通して学びました。すなわち、社会のルールや取引の仕組みについて学び、それらを使いこなす知識と思考力・判断力を身につけ、「気概」と「志」をもって、社会に貢献できる能力を修得したわけです。世の中が変わっても、このような能力を有した人材は時代を超えて求められるものであります。
この「自由・平等・正義と社会貢献を尊ぶ精神」は、卒業する皆さんの身体や心の中に自然に染みこんでいます。こうした学問と本学の精神および法学部の学風は、これから皆さんが出て行く社会において、きわめて貴重な財産となるでしょう。わたしとしては、皆さんが、本学で学んだことに、自信と自負をもって世の中で活躍されることを大いに期待しております。
ところで、皆さんが在学した4年間を振り返ってみますと、後半の2年間はコロナ禍が猛威を振るい、個人の行動・移動制限が課されるとともに、在宅でのオンライン授業を強いられるなど、大学生活の醍醐味の多くが失われました。また、社会では、多数の犠牲者を出し、人と人との交流が閉ざされ、経済活動の停滞は、多くの失業や経済的困窮を生み、世の中が殺伐として格差の拡大をもたらしました。さらに、世界に目を転じると、独裁的な指導者が増加し、その言動や政策がマスコミ報道を賑わせております。特に、ロシアによるウクライナ侵攻はその最たるものといえるでしょう。
皆さんは、このような世の中の危機的状況にあって、大学生活を送り、そして今日、大学を卒業し、社会に出るわけです。なかなか周りの人のことを思いやる余裕がなかった、また今後もないかもしれません。このようなときにこそ、本学の教育理念、「Do for Others」に続く後段、「what you want them to do for you」、「人にしてもらいたいと思うことは何でも」、「人のためにしなさい」との黄金律を思い出してください。洋の東西を問わず、孔子も同じような教えを説いております。「己の欲せざるところ、人に施すなかれ、と」(衞霊公篇)。孔子の弟子(子貢)が、孔子に「一言にして以て身を終るまで之を行うべきものありや、と」。つまり、“一文字で、終世守っていかなければならないものがありましょうか”と問うたところ、孔子が、「それ恕」であると答えたわけです。“恕”とは、心のごとしと書き、「人の心も自分の心と同じであろうと思いやる心持ち、すなわち他人の立場や心情を察すること」を意味します。このあとに、先に述べた、「己の欲せざるところ、人に施すなかれ、と」と続きます。見方や立ち位置が、能動的か受動的かの違いはあれ、キリスト教と儒学ともに、「他人の心のうちを思いやって」行動することが、生涯で一番大切なことだと説いているわけです。この思いやりの気持ちが欠落し始めている世界の今日この頃です。日々の生活のなかでちょっとした心がけ一つで、周りが変わり、世の中が大きく変わってくると思います(以上、村山吉廣『論語名言集』〔中央公論新社、1999年〕42頁以下から引用・参照)。心がけてください。
コロナ禍で迎える3度目の春ですが、昨日、サクラは平年より5日早く九州・四国で開花しました。もうすぐ東京でも満開のサクラが皆さんの門出をお祝いするでしょう。毎年、サクラをみたら本学で学んだ日々と、「Do for others what you want them to do for you.」、「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」、これを思い出してください。卒業、おめでとう。終わります。
2022年3月18日
法学部長 今尾 真